秋の風

『クワトロ・ラガッツィ 上』 若桑 みどり著 天正少年使節と世界帝国 宣教師が訪れた十六世紀半ばの日本は、戦国時代のまっただ中であった。切腹やら首切りなど血なまぐさい混乱した世情で、民は貧しかった。これをどうしようもない野蛮な民族とみた宣教師も…

鵙猛る

妄信と言うけれど・・・正露丸とれんこん ひと月ほど前、何年ぶりかに天上裏でネズ公が走った。嫌だなあ、どうするかなあ、そのために猫さんを飼うわけにいかないし。ネットでどうするか検索する。殺鼠剤か業者に頼むかどれも敷居が高い。そんな中で「正露丸…

けふの月

久しぶりの猫ちゃん 夕方散歩に出かけ、久しぶりに猫ちゃんに出会う。外猫には厳しくなったせいかまったくお目にかからなかった。もっともあまりの暑さに私も猫も外歩きをしなかったせいもあるかもしれない。 今年は例年になくきれいにみられた中秋の名月。…

今年米

『古文書返却の旅』 網野 善彦著 Tの大量の書籍を渉猟しても、なかなか読みたい本が見つからない。何か面白いのない?と聞いても、そんなものはありませんとにべもない。そんなこんなで見つけた一冊、思いの外面白かった。 終戦直後の1949年、国民の大半…

大根蒔く

映画『プラン75』を観る 昨年の話題の社会派映画である。カンヌ映画祭でも評価されてカメラドールの次点に選ばれたらしい。(もっともこれがどういう賞なのかは知らない) 高齢化社会に悩む将来の日本が舞台。75歳になったら生死が自由に選べる制度がで…

敬老の日

講演会『旗本徳山秀現の戦国時代』を聴く 入江康太氏(岐阜県歴史資料館・学芸員) 昨日、今日と新聞の折込チラシに葬儀屋のものが目立ち、敬老の日だと気づいた。会員になれば2割引きにしますとの謳い文句。足元を見透かした嫌な奴らだ。ちらりと気になら…

青林檎

『無人島のふたり』 山本 文緒著 膵臓癌で4ヶ月の余命宣告を受けた作家の病床日記である。この本は俵万智さんの読書案内で知ったが、(俵さんも最近食道癌で放射線治療を受けられたらしい)寡聞にてこの人のことはよく知らなかった。さまざまな賞を受賞され…

露の世

『家(チベ)の歴史を書く』 朴 沙羅著 この人の本は二冊目である。オーラルヒストリーの形式をとった彼女の一族(祖父母から父の兄弟)の話だ。彼女は在日二世の父と日本人の母との間の子どもだが、父の兄弟や祖父母はどんな経緯で日本に住むことになったの…

残暑

映画『繕い裁つ人』を観て縫い物をする U-nextで『繕い裁つ人』を観る。こだわりの服づくりをする女性を描いた作品で、どうということはなかったが、ただ使い捨てでなくて、丁寧に着たいなあという気持ちは伝わった。昔から簡単に捨てないで、いいものを長く…

虫の声

『スウェーデイッシュ・ブーツ』 ヘニング・マンケル著 柳沢由美子訳 刑事ヴァランダー・シリーズの著者による最後の作品である。以前読んだ『イタリアン・シューズ』の続編でもある。筆者は前作の七年後を想定してほしいと言っている。500ページ近い大部…

法師蝉

「昭和史1926−1945」 半藤 一利著 腹立たしさを通り越し、情けなく悲しさきわまる読後感である。 おおよそは既知の事実だが、三百十万ともいわれる命で購った戦いが、ここまでいい加減な成り行きであったとは。 初めて知ったことだが、幾度も止める…

台風

老人映画 二本観る 最近観た映画より 「八月の鯨」 1987年 アメリカ映画 93歳のリリアン・ギッシュと79歳のベティ・デイヴィスの共演。小さな島で暮らす老姉妹の日常を淡々と描いた作品。昔にも観たが、若い時は退屈だった。今なら老姉妹の寂しさも…

敗戦忌

『ある補充兵の戦い』 大岡 昇平著 重く辛い読後感である。 大岡昇平、補充兵として戦地に送られ、奇跡的に生還するまでを記録した短編集である。いくつかの戦記ものを時系列に並べたもので、一番最初に書かれたのは、『捉まるまで』。マラリアで衰弱し、敵…

夜の秋

映画『東京家族』を観る 2013年製作、山田洋次監督。ご存知『東京物語』のリメイク版である。設定やストーリーなど大筋で『東京物語』を踏まえている。今の時代の普遍的家族物語という面もあって、なかなかよかった。 ただ、『東京物語』とは明らかに差…

夏休み

『いまだ人生を語らず』 四方田 犬彦著 『月島物語』以来、著者は私には縁遠い人である。Tからすごい天才だと聞かされていた。何でも高校に入学した年の春休み、三年間の数学を一気に仕上げ、後は何もしなかったというのである。それだけで、数学に振り回さ…

蜥蜴

『作家の老い方』 草思社 小説家、詩人、歌人、俳人、評論家などなど人生の先達たちの「老い」に関する文章を集めたものだ。 心に残った歌がある。 冬茜褪せて澄みゆく水浅黄 老いの寒さは唇(くち)に乗するな 齋藤 史 このアンソロジーのなかで二度も出て…

蝉しぐれ

『石垣りんエッセイ集 朝のあかり』 石垣 りん著 一四歳で働きに出て、一生自分の足だけで立ってきた人らしい矜持、確固とした意志と深い思慮に貫かれたエッセイ集である。仮借のない鋭い観察とアイロニー、辛辣な眼差し、一方日の当たらぬ者への優しさ、ど…

熱帯夜

小津映画を観る 連日の猛暑である。連休を利用して下の孫が受験勉強に来宅、冷房のリビングは終日勉強室である。トシヨリは奥の和室に閉じこもり、暑さで半ボケの頭で映画を観ることに。 小津作品は「東京物語」しか観てなかったが、先日「彼岸花」を観る。…

梅雨深し

『縄文文化と日本人』 佐々木 高明著 その2 「成熟した採集社会」の東日本に比べ、何かと見劣りしていた西日本に、縄文晩期水田稲作農耕が伝来した。初期は畑作物の渡来で、やや遅れて本格的な水田稲作農耕が伝わったらしい。 もともと雑穀やイモ類を主作物…

初蝉

『縄文文化と日本人』 佐々木 高明著 その1 また、縄文である。私には手強い本だが興味深い内容なので、ここで大雑把な紹介を試みてみようと思う。 問題は「日本文化はどのようにして成立したのか」ということである。筆者は「日本文化は単一の稲作文化であ…

梅雨晴間

『口訳 古事記』 町田 康訳 町田康による大阪弁(?)の『古事記』である。面白いのなんのって、破天荒な古事記である。例えば、因幡の白兎とオオクニヌシノミコトのやりとりは 「あいつら、騙して渡ったろ、と思ったんですよ。あいつらアホなんで」 「騙す、…

京都へ行く 京都国立博物館(京博)の「縄文土器と土偶」展を見に行きたいと家族に提案する。「又、縄文かあ」と半ば呆れられながらの京都行き。暑さを考えて曇天の日にしたのだが、近日中最も蒸し暑い日になった。 京博は2013年のリニューアル以来初め…

短夜

映画『生きる』を観る 1952制作 黒澤明監督 カズオ・イシグロ氏の脚本でリメイクされたという記事を読んで、まだ観ていなかった元作品を観た。あらすじについては、周知されているとおりだが、思った以上に社会批判官僚主義批判が前面に出ていて驚いた。…

梔子

『おやじはニーチェ』 高橋 秀実著 認知症は、長生きすれば、だれにも出てくる症状らしい。(80代後半では41・1%、90代では61%)それでいて有効な特効薬もなく、治療法もない。確立された予防方法もないから、なるかならないかは宝クジのようなも…

五月闇

『土偶を読むを読む』 望月 明秀編 『土偶を読む』は去年3月12日、このブログでも取り上げた。土偶を形態的特徴からいくつかの食用植物や貝類のフィギュアと見立てた仮説で、面白かったと書いている。 この本はその仮説に対するアンチテーゼである。「皆…

梅雨晴れ間

夏服を縫う イオンの手芸用品売り場で見つけた時、涼し気な模様にひとめぼれした。ローン地に紺色の金平糖模様だ。夏服を縫いましょうと思ってから、ちょっとたったが、昨日今日で出来上がる。Tシャツ代わりの普段着ブラウスで、毎回同じパターン、今回は襟…

紫陽花

映画『ドライブマイカー』を観る 濱口竜介監督 2021年制作 U-NEXTで無料視聴ができるようになったので観る。評判に違わず、なかなか見ごたえのある作品だった。 妻の死後、妻の浮気相手によって語られた夫の知らない話。妻には夫がすべて知っているのが…

青梅

『世界は五反田から始まった』 星野 博美著 渾身の力が入ったノンフィクションである。(第49回大佛次郎賞受賞作品)これまでに読んだことがある星野作品は、例えば『島で免許をとる』など、ユーモラスな自伝的作品だった。 が、これはちょっと違う。始ま…

枇杷

枇杷のコンポート いよいよ梅雨入。五月中の梅雨入りは十年ぶりらしい。つまり早いということ。 雨の無聊で昨日採ってもらった枇杷をコンポートにする。鳥の落とし物の枇杷の木だから、実は小さい。それから大きな種を取り出し、皮を剥くのだから面倒と言え…

蛇(くちなは)

映画『舟を編む』(2013年制作 石井裕也監督) 三浦しおんの同名小説を映画化したものだ。以前小説を読んでいたので、話の展開はわかっていた。ずいぶん前の読書だから、本と比べてどうのこうのは言えないが、様々の賞を受けた作品らしく、辞書編集者の苦労や…