紫陽花

映画『ドライブマイカー』を観る 濱口竜介監督 2021年制作

 U-NEXTで無料視聴ができるようになったので観る。評判に違わず、なかなか見ごたえのある作品だった。

 妻の死後、妻の浮気相手によって語られた夫の知らない話。妻には夫がすべて知っているのがわかっていた。わかっていても知らないふりの夫に苛立ってもいた。間違いを咎め、動揺してほしかった。

 夫は妻とまっすぐ向き合うことを恐れていた。妻の行為を知っても、自分だけが本当の妻の姿を知っていると満足していた。

 哀しい気持ちのすれ違い、真実に気づいた時、真っ正直に向き合いたくてもこの世に妻は、すでにいない。深い絶望と喪失感を抱えて、それでも生者は生きていかねばならない。

通奏低音のように響いてくる『ワーニャ伯父さん』のセリフが効いている。最後、それでも生きようと励ますソーニャの手話が感動的だった。

 村上春樹の短編が元だというが、脚本が見事。久しぶりにいい映画を観た。

 

 

 

      紫陽花や古き記憶のよみがへり

 

 

 

紫陽花とりどり、一番好きな花だ。