蛇穴を出づ

『ロニョン刑事とネズミ』 ジュルジュ・シムノン著 宮嶋聡訳

 図書館の新刊棚に残っていたので借りる。帯の惹句に「メグレ警視」シリーズの番外編とある。表題にロニョン刑事とあるが、彼が活躍するわけではない。どちらかというと彼は間抜けな役回りで、事件を解決するのはリュカ警視だ。

 ネズミと呼ばれる浮浪者が道で大金を拾ったと、届け出る。実は道で拾ったわけではなく、たまたま出会った死体から転がり落ちたものだ。遺失物として届ければ、一年後にはまるまる手に入ると踏んでのことで、死体は無視した。ところが、死体は消えてしまったのかニュースにもならない。殺されたのは誰か。挙動不審なネズミにロニョン刑事がつきまとう。果たしてネズミは大金を手にできるのか

 最近はミステリー本以外を読んでない。それも翻訳本ばかり。名前を頭に入れるのに苦労があるが、生々しすぎないところが増しかもしれない。今回も何度も最初の「主要登場人物」に戻って読み進め、人間関係が判然とした頃に読み終わった。再読すれば謎解きもはっきりするが、そこまではしない。

 一挙に夏日の到来で、冬物の片づけやら、外仕事と慌ただしい。甘夏も残り少なくなり、 昨日はマーマレードの12回目を煮込んだ。ブーゲンビリアの植え替え、彼岸以来の墓参り、草引き、黄砂で汚れたサッシの掃除などなど。やらなくてもすむことまでやってると言われる貧乏性だ。

 桜はすっかり葉桜、チューリップはがばりと開いて外れ、山吹と牡丹とつつじが咲き出した。

 

 

     ガザ虐めまだ終わらぬかと蛇の出づ

 

 

 カサコソした音に振り向けば、青大将の尻尾がスルスルと草叢に消えて行った。十月から始まったガザの災禍は、冬眠中も続いていたかと蛇もあきれているにちがいない。