風薫る

『芭蕉の風景 下』 小澤 實著 下巻の前半分弱は『おくのほそ道』の句を辿る話である。 芭蕉が陸奥へ旅立ったのは「更科紀行」から帰りて半年後、春三月のことである。四十六歳、百五十五日、2400キロの長旅である。同行者は曽良。彼が後に幕府の巡見使と…

若葉雨

『芭蕉の風景 上』 小澤 實著 上巻の残りを読む。紀行文『笈の小文』の部分である。芭蕉四十四歳、伊賀上野から伊勢に参り、吉野、和歌浦、奈良、明石須磨と巡る旅。米取引で罪を得て逼塞中の杜国を誘っての旅でもある。 折々の俳句が先人たちの古歌を踏まえ…

夏草

『芭蕉の風景 上』 小澤 實著 前々から気にかかっていた本を読み始める。まずは上巻の半分、芭蕉四十代初めのころまでである。伊賀上野から江戸に出てきて日本橋辺りから深川に住み替え、野ざらし紀行に出かけるまで(芭蕉四十一歳から四十四歳)。この間の…

走り梅雨

『やさしい猫』 中島 京子著 たまたまこの本の名前が出てきた時、旧友は「たいした本じゃないけど」と言ったのだ。予約を入れていた私はそのまま借りたが、期待しないで読み始めた。だが、実に面白かった。複雑な心理描写もなく読みやすかった。最後がハッピ…

植田

蒲生野と近江八幡 「こころ旅」を見ていて、近江行きを思い立つ。近江は何度も訪れてはいるが、まだまだ見たいところは多い。今回は「近江の国宝建築巡り」と称してプランをつくる。 まずは名神高速の蒲生ICで下りて苗村神社へ。延喜式神名帳にも名のある古…

みどり

『スットン経』 諏訪 哲史著 「ちっとも読めない」と愚痴っていたら、古友達が「面白かったよ」と薦めてくれた一冊。連休があったり、気がのらなかったりと何日もかかって読了。たまにはなにか書かないとお客さんが皆無になりそうで、意味もない感想を少し。…

桜海老

『NHKスペシャル 見えた 何が 永遠が 立花隆最後の旅』 この4月30日は立花さんの一周忌に当たるらしく、親交のあったデレクターによる追悼番組である。死の半年後、知の巣窟ともいう「猫ハウス」の書棚が、きれいに空になっていた。それに驚いたところか…

春惜しむ

不調の原因判明 昨年は三回、今年になって二回、突然の高熱と胃腸障害の原因と思われるものが判明した。血液検査の結果、ある病気の初期症状とわかったのだ。またまた厄介なものを抱え込んだという気持ちである。一度大病を患うとストレスで別の病を引きずる…

静岡紀行 一日目 コロナの収束はおぼつかないが、ワクチンを三回接種したこともあり最大限人密を避けることにして出かける。従って今回は車での移動中心。 朝8時前に自宅出発。東名高速で、まずは昼食予定の焼津を目指す。途中上郷SAと浜名湖SAで休息。今回…

仔猫

『ねこのほそみち』 堀本 裕樹・ねこまき著 たわいない本をとお笑いめさるな。実に楽しい本でした。右ページに猫の俳句と堀本さんの鑑賞文。左ページにねこまきさんの猫マンガ。絶妙な取り合わせで夢中でページを繰りました。全部で89句。龍太さんもあれば…

春闌くる

『時宗の決断』 永井 路子他著 本が読めない。いろいろ摘まんではみるのだが、こういう時代に架空の人物の気ままな情緒に付き合っているのが嫌になって放り出す、というのを繰り返している。幸いこの時期はしなければいけないことがいろいろで(例えば庭仕事…

春祭

『硝子戸のうちそと』 半藤 末利子著 何かで薦められていたのでたくさんの予約の果に借りてきた。茶飲み話、世間話のようなものだが、漱石のお孫さん、半藤一利夫人の世間話である。随分ぶっちゃけた物言いの人だなあというのが一番の感想だ。 最後の方に半…

さくら散る

『俳句と人間』 長谷川 櫂著 春は、なんとなく感傷的な気分になる。時のうつろいがあまりにも早いせいかもしれぬ。三日ばかり又体調不調で寝込んでいたうちに、紅梅は無残に色褪せて散り、桜も木蓮も満開になった。満開の嬉しさに浸るより、いずれもあと二三…

春うれひ

『北条氏と鎌倉幕府』 細川 重男著 「鎌倉殿と13人」を見ている。おぼろげにしか知らぬ歴史を、おさらいしようと借りてくる。 読めば読むほど凄惨な時代である。結局頼朝の兄弟やら子はみな悲惨な死を遂げ、頼朝の家系は断絶。合議制のメンバーたちも何人…

三月

『根に帰る落葉は』 南木 佳士著 久しぶりに著者の新刊広告を見つけ、図書館で検索したが、まだ入っていなかった。代わりに未読の本書を見つけた。文庫本仕様の小型本で、見逃していたのを司書の方に教えてもらう。 いつもながら、40代に患ったという心の…

水温む

『天野忠詩集』 天野 忠著 小舟 若い人は物持ちだから あたりの景色も見ずに どんどん先に行くのもよい。 老人は貧しいから 物惜しみをしなくてはならない。 生から 死に向かって 極めてゆるやかに 自分の船を漕ぎなさい。 あたりの景色を じっくりと見つめ…

春風

『土偶を読む』 竹倉 史人著 土偶とは一体何をかたどっているのか。豊穣を願う妊娠女性像かと言われながらも、今一歩説得力ある説明がなかった。が、この本の仮説は実に面白かった。 筆者は土偶の形態を具体的に分析する方法で次のように仮説を立てた。つま…

囀り

『老いのゆくえ』 黒井 千次著 入浴時膝にくろにえ(岐阜弁で青あざをいう)を見つけた。土曜日に室内の段差で転んだせいだ。まだ薄暗い早朝、ゴミ出しの用意をしようと、電気もつけずにばたばたした。後で思えばスリッパもいいかげんにつっかけただけだった…

雛の夜

<岐阜県博物館へ「岐阜の縄文世界」展を見にゆく> 1月からの展示会もコロナで遠慮しているうちに会期も終わりに近づいた。寒さが緩んでワクチンも打った機会にとでかける。気遣うほどのことはなく、展示会見学者はわが家族だけ。駐車場の車はもっぱら里山…

風光る

『モンタルバーノ警部 悲しきバイオリン』 アンドレア・カミッレーリ著 千種 堅訳 一昨日ワクチンの三回目を接種した。今回はモデルナ。副反応は個人差があるようだが、今回は前二回よりは応えた。接種日の夜は痛みで寝返りもうてず、昨日は腕を後ろに回すこ…

春疾風

『北園町九十三番地 天野忠さんのこと』 山田 稔著 天野さんのことは、山田さんの著書を通して知った。お二人のお付き合いはさぞかし長年にわたるものであろうと思い込んでいた。ところが、さにあらず。この本によれば親身なおついあいは天野さんの晩年、わ…

余寒

『おやつ泥棒』 アンドレア・カミッレー著 千種堅訳 相変わらず春の気配は遠い。立春後にも何度も雪が舞う。今年初めてのダウン。いつもと全く同じ、高熱と胃腸障害というパターンで、念の為車の中で待機してpcr検査というのも、いつもと一緒。幸い今回も…

春浅し

『帰れない山』 パオロ・コニェッティ著 関口英子訳 このイタリア文学を読もうとしたきっかけを忘れた。どこかで推薦文を読んだのだろうが。借り出す本のリストにメモってあったので、検索して借りてきた。2017年のイタリア文学界の最高峰ーストレーガ賞…

春寒し

『飛ぶ教室』 ケストナー著 丘沢静也訳 先に読んだ本で、川本さんは中学生のころ、この本を読んで身につまされたといったことを書いておられた。 主人公の一人の少年が、クリスマスだというのに帰省できない。親が、貧しくて帰省の費用が工面できないので寄…

水仙

『すごいトシヨリ散歩』 池内 紀・川本 三郎著 最初、池内さんの『すごいトシヨリBOOK』と混同していた。「同じじゃないよ」とTに教えられてよく見たら、こちらは川本さんとの共著であった。 池内さんがお亡くなりになる寸前までの対談を含めた内容。お互い…

大根

『邪馬台国再考』 小林 敏男著 この本は、邪馬台国(最近はヤマトコクとよむのが一般的らしい)について文献史学の立場からアプローチしたものである。 邪馬台国については従来より九州説と近畿説があり、様々な論争と検証がなされてきた。これらの論争への…

『日本史の輪点』 中公新書編集部編 お経の本ばかり読んでいたから、少し目先を変えたいと思い読み始めたもの。いつもながら古代史から中世前期までは興味深く進むのだが、室町に入ると突端にいけない。ちょっと跳ばして江戸へ、近代(明治・大正)もとびと…

猫の恋

『いつか死ぬ、それまで生きるわたしのお経』 伊藤 比呂美著 ずっと伊藤さんのお経に関係する本を読み続けている。伊藤さんと同じように信心があるわけではない。突き詰めれば、死ねば宇宙の微塵となって散らばるだけと思っている。その一方で毎日仏壇の扉を…

どんど焼き

『ドク・ホリディが暗誦するハムレット』 岡崎 武志著 春陽堂書店のウェブで連載されている「オカタケな日々」はいつも愉しみに拝読している。この本はそれを纏めたもので、既読の部分もあるが応援の気持ちでTが買ってきた。オカタケさんのは、文章が上手い…

『句あれば楽あり』 小沢 昭一著 多分読んだことがあるのだが、中身はすっかり忘れているから何度だっていいのです。過日読んでいた「東京やなぎ句会」の続きのようなもので、小沢さんの韜晦した洒脱な語り口が心地よい。 ちっとも上達しないと一日一句を志…