春の夢

『隆明だもの』 ハルノ 宵子著

 久しぶり自前で購入した本。ハルノさんの本の面白さは『猫だましい』ですでに納得済みだ。Tと連れ合いと三人で回し読みするつもり。

 昨日の朝日の読書欄の平川克美氏の書評に立派なことは書かれいるので、ここではどうでもよい感想だけ触れたいと思う。

 私たちの学生時代は、吉本さんは今の「推し」のような存在で、「言語にとって美とはなにか」とか「共同幻想論」とか、随分流行っていた。連れ合いなんかも読んでいたようだが、私はちっともわからなかった。後年、Tが吉本さんを「推し」にして、うちに吉本本が溢れてからはわかりやすいものを多少読んだくらいである。

 そんなこんなで吉本さんと言えば、武骨で硬派な知の権化というイメージから、ネコ好きでおだやかな庶民的知識人へと変わってきたのであるが・・・。そして、この本である。ここには老いて手がかかるようになった吉本さんが、いっぱい書かれている。人は誰でも老いていく。当事者には深刻で介護者にとっても大変なことなのだが、端から見れば、なんと笑えてしまうのだろう。ハルノさんの文章を通して、いっぱい笑った。そして吉本さんでもこうだったのだと安堵もした。

 この本の中には、吉本さんは脚の出る講演もいっぱい引き受けたとあったが、多分昔連れ合いたちが頼んだ大学祭での講演もそのたぐいだったにちがいない。田舎の学生の依頼を引き受けるか迷っておられたら、端の奥様が「せっかくだから引き受けてあげたら」と助け船を出してくださったらしい。「お母ちゃんは外には優しいがうちにはきびしいなあ」とおっしゃっていたらしいが、その一例だったかもそれないと思うことだ。

没後すでに12年。命日は3月16日とある。

 

 

       たまさかに五十六年春の夢

 

 

 本日、結婚記念日。いつの間にやら56年経ってしまった。「花束」なんか一回ももらったことがないと、この前愚痴ってやった。まあ健康だけが「花束」と納得するしかないか。

 

ネモフィラ