読書

若葉雨

『芭蕉の風景 上』 小澤 實著 上巻の残りを読む。紀行文『笈の小文』の部分である。芭蕉四十四歳、伊賀上野から伊勢に参り、吉野、和歌浦、奈良、明石須磨と巡る旅。米取引で罪を得て逼塞中の杜国を誘っての旅でもある。 折々の俳句が先人たちの古歌を踏まえ…

夏草

『芭蕉の風景 上』 小澤 實著 前々から気にかかっていた本を読み始める。まずは上巻の半分、芭蕉四十代初めのころまでである。伊賀上野から江戸に出てきて日本橋辺りから深川に住み替え、野ざらし紀行に出かけるまで(芭蕉四十一歳から四十四歳)。この間の…

仔猫

『ねこのほそみち』 堀本 裕樹・ねこまき著 たわいない本をとお笑いめさるな。実に楽しい本でした。右ページに猫の俳句と堀本さんの鑑賞文。左ページにねこまきさんの猫マンガ。絶妙な取り合わせで夢中でページを繰りました。全部で89句。龍太さんもあれば…

春闌くる

『時宗の決断』 永井 路子他著 本が読めない。いろいろ摘まんではみるのだが、こういう時代に架空の人物の気ままな情緒に付き合っているのが嫌になって放り出す、というのを繰り返している。幸いこの時期はしなければいけないことがいろいろで(例えば庭仕事…

春祭

『硝子戸のうちそと』 半藤 末利子著 何かで薦められていたのでたくさんの予約の果に借りてきた。茶飲み話、世間話のようなものだが、漱石のお孫さん、半藤一利夫人の世間話である。随分ぶっちゃけた物言いの人だなあというのが一番の感想だ。 最後の方に半…

三月

『根に帰る落葉は』 南木 佳士著 久しぶりに著者の新刊広告を見つけ、図書館で検索したが、まだ入っていなかった。代わりに未読の本書を見つけた。文庫本仕様の小型本で、見逃していたのを司書の方に教えてもらう。 いつもながら、40代に患ったという心の…

水温む

『天野忠詩集』 天野 忠著 小舟 若い人は物持ちだから あたりの景色も見ずに どんどん先に行くのもよい。 老人は貧しいから 物惜しみをしなくてはならない。 生から 死に向かって 極めてゆるやかに 自分の船を漕ぎなさい。 あたりの景色を じっくりと見つめ…

囀り

『老いのゆくえ』 黒井 千次著 入浴時膝にくろにえ(岐阜弁で青あざをいう)を見つけた。土曜日に室内の段差で転んだせいだ。まだ薄暗い早朝、ゴミ出しの用意をしようと、電気もつけずにばたばたした。後で思えばスリッパもいいかげんにつっかけただけだった…

風光る

『モンタルバーノ警部 悲しきバイオリン』 アンドレア・カミッレーリ著 千種 堅訳 一昨日ワクチンの三回目を接種した。今回はモデルナ。副反応は個人差があるようだが、今回は前二回よりは応えた。接種日の夜は痛みで寝返りもうてず、昨日は腕を後ろに回すこ…

春浅し

『帰れない山』 パオロ・コニェッティ著 関口英子訳 このイタリア文学を読もうとしたきっかけを忘れた。どこかで推薦文を読んだのだろうが。借り出す本のリストにメモってあったので、検索して借りてきた。2017年のイタリア文学界の最高峰ーストレーガ賞…

春寒し

『飛ぶ教室』 ケストナー著 丘沢静也訳 先に読んだ本で、川本さんは中学生のころ、この本を読んで身につまされたといったことを書いておられた。 主人公の一人の少年が、クリスマスだというのに帰省できない。親が、貧しくて帰省の費用が工面できないので寄…

水仙

『すごいトシヨリ散歩』 池内 紀・川本 三郎著 最初、池内さんの『すごいトシヨリBOOK』と混同していた。「同じじゃないよ」とTに教えられてよく見たら、こちらは川本さんとの共著であった。 池内さんがお亡くなりになる寸前までの対談を含めた内容。お互い…

大根

『邪馬台国再考』 小林 敏男著 この本は、邪馬台国(最近はヤマトコクとよむのが一般的らしい)について文献史学の立場からアプローチしたものである。 邪馬台国については従来より九州説と近畿説があり、様々な論争と検証がなされてきた。これらの論争への…

『日本史の輪点』 中公新書編集部編 お経の本ばかり読んでいたから、少し目先を変えたいと思い読み始めたもの。いつもながら古代史から中世前期までは興味深く進むのだが、室町に入ると突端にいけない。ちょっと跳ばして江戸へ、近代(明治・大正)もとびと…

どんど焼き

『ドク・ホリディが暗誦するハムレット』 岡崎 武志著 春陽堂書店のウェブで連載されている「オカタケな日々」はいつも愉しみに拝読している。この本はそれを纏めたもので、既読の部分もあるが応援の気持ちでTが買ってきた。オカタケさんのは、文章が上手い…

着ぶくれ

『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』 伊藤 比呂美著 読むいうより読まされた。散文詩というのだろうか。文章がつるつるつるとリズムよく流れ、ひとりでに頭に沁みてくる。古今東西、詩人に小説家、古事記にお経に梁塵秘抄、あらゆる声借りが一層流れをせきたてる。 …

松過ぎ

『日常を愛する』 松田 道雄著 松田さんの本を久しぶりで読んだ。文末まで意志がしっかり通い、簡潔できっぱりした物言いに、「ああこの口ぶりに何度も納得させられ、慰められた」と思い出した。『育児の百科』や『わたしは二歳』など、どれだけ開いたことか…

虎落笛

『友あり駄句あり三十年』 東京やなぎ句会(編) 面白くてためになり、いい本だった。個性的なメンバーの飄逸な話もさりながら、なかなか皆さんいい句を詠まれ、さすがだなあと感心しきり。東京やなぎ句会の存在は、小沢昭一さんや江國滋さんの本などで読ん…

『まくら』 柳家 小三治著 小三治さんという落語家の偉大さをよく知らなかったのはつくづく残念。追悼番組で「初天神」を聞いて、全く魅了された。これも後、知ったのだが。「初天神」の「金坊」はお得意中のお得意だったらしい。「まくら」も名人芸だという…

冬椿

『ヨルガオ殺人事件 上・下』 アンソニー・ホロヴィッツ著 山田 闌訳 上下二巻を、金曜日に借りてきて四日で読んだ。年末の慌ただしいのにである。ミステリーは、作品の価値にかかわらず問題が解決するまでは読み続けないと落ち着かない。 さて、評価はどう…

『読み解き般若心経』 伊藤 比呂美著 いやあ、実に実に面白かった。最後の方は目頭が熱くなった。 そもそもNHKの「こころの時代」で伊藤さんのお経の話を聞いたのが始まりだ。それで『いつか死ぬ、それまで生きるわたしのお経』を買って読み始めた。途中で図…

冬の空

『寡黙なる巨人』 多田 富雄著 12月8日、開戦日の前後に新聞やテレビで戦争に関する特集が組まれていた。この老人がいまさら開戦の詳細を振り返って意味があるとは思えないのだが、知らなすぎることが多いと加藤陽子さんの本を借りてきた。『戦争まで 歴…

北風

『春楡の木陰で』 多田 富雄著 ダンボール箱に積まれたTの既読本の中から出してきた一冊。 多田さんは免疫学の世界的泰斗で文筆家でもある。学者として油ののっている時期に脳梗塞で倒れられ、重い後遺症が残った。死を願われるほどの深刻な状況にもかかわら…

木の葉掻く

『俳諧辻詩集』 辻 征夫著 アマゾンで一円で購入。もちろん送料は別だ。なかなかいい本で、得した気持ち。俳句に詩が連動している。私はもっぱら俳諧味のある俳句に惹かれた。季節のせいか冬の俳句に感心する。 床屋出てさてこれからの師走かな 熱燗や子の耳…

十二月

『姉の島』 村田 喜代子著 『飛族』と同じく離島の海女の婆たちの話である。 島の海女たちは八十五の齢を迎えると、倍暦といって齢を倍に数える習わしがある。ミツルと小夜子は春の彼岸に倍歴で百七十歳になった。現役は引退しても、まだまだ潜る元気はある…

今年米

『埴輪は語る』 若狭 徹著 昨日のニュースだったと思うが、大山古墳(仁徳天皇陵)の調査で、やはり大型の円筒埴輪が並べられていたことが判明したと伝えていた。この本の著者によれば古墳の規模で立て並べられた円筒埴輪の数は大きく違い、おそらく大山古墳…

暮早し

『サコ学長、日本を語る』 ウスビ・サコ著 毎度のことだが、Tが読んでいて面白そうなので、回してもらう。 京都清華大学の学長がアフリカ出身の方ということは、何かで読んだことがあったが、どんな方かは知らなかった。アフリカのマリ共和国に生まれ、中国…

冬に入る

『山田 稔 自選集Ⅲ』 山田 稔著 Ⅲ巻は、パリでの思い出とスコットランド紀行、それに「自筆年譜」を加えたものである。作品は、いずれも既読であったが面白かった。いつもながら文体が読みやすく、味わい深い。スコットランド紀行もいいが、中でも「シモーヌ…

障子貼る

『山田 稔自選集Ⅱ』 山田 稔著 山田さんの自選集二冊目である。この巻は故人に係る思い出が多く、追悼集といってもよい。しみじみした話は印象に残っていて、どれもすでに読んだことを思い出した。書かれている主な故人をあげると、「八十二歳のガールフレン…

捨案山子

『山田稔 自選集 Ⅰ』 山田 稔著 県図書館に山田さんの自選集があり、珍しいことに誰も借りていない。Tが出かけたついでに早速借りてきてもらう。 全三巻である。一巻目は短い散文集。主に『ああ、そうかね』と『あ・ぷろぽ』からの抽出である。 『あ・ぷろぽ…