読書

敬老日

『猫に教わる』 南木 佳士著 多分、最新のエッセイ集である。文体に惹かれるものがあって、エッセイがでれば借りて読んできたが、小説は読んだ覚えがない。そういうあまりいい読者ではないのだから、とやかく言えたものではないが、話はいつも同じような話に…

つくつくし

『新・木綿以前のこと』 永原 慶二著 昔の人は何を着てたんだろう。そう思ったのは、少し前に読んだ上野誠さんの『万葉人の奈良』で、「調」の麻織物に苦労する東国の女たちの歌を読んだからだ。ともかく麻(苧麻)の茎から繊維を取り出し、糸により、織り上…

休暇果つ

『仰天●俳句噺』 夢枕 獏著 表題に「俳句」とあったので図書館の新刊コーナーから借りてくる。著者の作品は手に取ったこともなかったが、いやいや実に面白かった。文脈などというものがあるのかどうか、(よく読めばあるのですが)噺はあっちに跳びこっちに…

露けし

『日本の歴史7 鎌倉幕府』 石井 進著 夕べは酷い雨だった。八月としては初めて、一時間78ミリという豪雨と雷で、「緊急避難警報」がけたたましく鳴った。これは隣の岐阜市からの情報で、わが家の隣の川は岐阜市との境である。見ればあと10センチほどで…

秋の雨

『屍の街』 大田 洋子著 大田洋子という人は、戦前ある程度の評価を受けた作家であったらしいが、全く知らなかった。この本も、新聞の読書欄の斎藤美奈子さんの紹介で、初めて知った。 著者39歳、広島市内で被爆。当事者だけに凄惨で残酷な被爆体験記録で…

敗戦日

『街道をゆく四十二 三浦半島』 司馬 遼太郎著 BSで「新 街道をゆく 三浦半島」というのを見た。古いシリーズが再放送されていたのは知っていたが、これには「新」が付く。「鎌倉殿の十三人」に合わせた企画かもしれない。「街道をゆく」はどれも昔読んだは…

秋立つ

『古代史おさらい帖』 森 浩一著 森さんが亡くなられてすでに九年になる。調べると、はからずも一昨日が祥月命日だったようだ。森さんも佐原真さんも素人にもわかりやすい言葉で語りかけてくださり、すきな学者さんであった。いずれも故人になってしまわれて…

熱帯夜

『万葉びとの奈良』 上野 誠著 筆者の言葉によれば、この本は「万葉集に、平城京とその時代を語らせる本」である。 飛鳥・藤原京の地からの遷都、初めての中国風の大都に暮らす人々の「みやこのてぶり」という都ぶりの感覚、多くの官人たちの日常、それを支…

草を掻く

『ラスト・ワルツ』 井波 律子著 井波 陵一編 全く同時代の、この中国文学者のことを今まで知らなかった。知っていたからと言ってどうということはないのだが、それでもすでに昨年秋に亡くなったと知れば、残念というか遅れたという気持ちが湧く。 1944…

『すべての月、すべての年』 ルシア・ベルリン著 岸本佐知子訳 『掃除婦ための手引書』につづくルシア・ベルリンの短編集である。訳も前書同様に岸本佐知子さん。 確かに面白いのだが、半分ほどで疲れた。筆者の分身らしき語り手や主人公に何か思い入れがあ…

戻り梅雨

『日本神話の世界』 中西 進著 図書館で予約した本がなかなか入らず、Tの本棚を渉猟することが続いている。これも発掘してきた一冊だが、それほど古いものではない。 中西さんによる日本神話の読み解きだ。イザナギ、イザナミ二神の国産みから始まって天孫三…

初蝉

『梁塵秘抄』 西郷 信綱著 『梁塵秘抄』と名付けられた訳は、美声のひびきが梁に積もった塵を動かした故事に由来するとは、不明であった。編んだのは、かの大天狗、後白河法皇。今様狂いとまで言われ、歌い過ぎて生涯に三度も喉を潰したという。残存するのは…

夏出水

『女たちの壬申の乱』 水谷 千秋著 壬申の乱についての著書はいろいろあるが、この本はこの乱に巻き込まれた女性たちに特化した一冊である。書記や万葉集を史料にして、筆者自身の新しい知見もあり、興味深い内容であった。 多くの女性たちの中でも、一番の…

梅雨明

『戦争は女の顔をしていない』 スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ著 三浦みどり訳 第二次世界大戦でのソビエットの戦死者は1450万人とも言われ、桁外れに多い。そして、この本によれば、100万人を越える女性も兵士として戦ったそうだ。十代の後半か…

明易し

『生きて帰ってきた男』 小熊 英二著 これは、著者が自身の父親(謙二さん)の聞き手になって編んだ、オーラルヒストリーである。 大正末年に生まれた彼は、当時の庶民的な暮らしの中で成長、満19歳で招集された。1944年のことで、すでに日本には満足…

『ウマし』 伊藤 比呂美著 伊藤さん好きのTから回ってきた。こちらも好きだからすぐ読む。難しいことはなんにもない。好きな食い物、懐かしい食い物、嫌いな食い物にまつわるエッセイ。別の本で、検診の結果「食べすぎ」と一刀両断にされて落ち込でおられた…

片かげり

『評伝 石牟礼道子』米本 浩二著 良かったからとTに回してもらう。確かに興味深い中身であった。そして、ただただ石牟礼道子というただならぬ精神に圧倒された。 あとがきで著者は「石牟礼道子の場合は底が見えない。」と書き、解説で池澤夏樹は著者の努力に…

柿若葉

『芭蕉の風景 下』 小澤 實著 やっと下巻の三分の二あたりまで読了。 「おくのほそ道」から帰った芭蕉は、その後郷里伊賀や大津、京都と関西で暮らす。関西から江戸に帰って五十歳までの五年間、小澤さんはこの間を「上方漂白の頃」と名付けて一章とされてい…

風薫る

『芭蕉の風景 下』 小澤 實著 下巻の前半分弱は『おくのほそ道』の句を辿る話である。 芭蕉が陸奥へ旅立ったのは「更科紀行」から帰りて半年後、春三月のことである。四十六歳、百五十五日、2400キロの長旅である。同行者は曽良。彼が後に幕府の巡見使と…

若葉雨

『芭蕉の風景 上』 小澤 實著 上巻の残りを読む。紀行文『笈の小文』の部分である。芭蕉四十四歳、伊賀上野から伊勢に参り、吉野、和歌浦、奈良、明石須磨と巡る旅。米取引で罪を得て逼塞中の杜国を誘っての旅でもある。 折々の俳句が先人たちの古歌を踏まえ…

夏草

『芭蕉の風景 上』 小澤 實著 前々から気にかかっていた本を読み始める。まずは上巻の半分、芭蕉四十代初めのころまでである。伊賀上野から江戸に出てきて日本橋辺りから深川に住み替え、野ざらし紀行に出かけるまで(芭蕉四十一歳から四十四歳)。この間の…

走り梅雨

『やさしい猫』 中島 京子著 たまたまこの本の名前が出てきた時、旧友は「たいした本じゃないけど」と言ったのだ。予約を入れていた私はそのまま借りたが、期待しないで読み始めた。だが、実に面白かった。複雑な心理描写もなく読みやすかった。最後がハッピ…

みどり

『スットン経』 諏訪 哲史著 「ちっとも読めない」と愚痴っていたら、古友達が「面白かったよ」と薦めてくれた一冊。連休があったり、気がのらなかったりと何日もかかって読了。たまにはなにか書かないとお客さんが皆無になりそうで、意味もない感想を少し。…

仔猫

『ねこのほそみち』 堀本 裕樹・ねこまき著 たわいない本をとお笑いめさるな。実に楽しい本でした。右ページに猫の俳句と堀本さんの鑑賞文。左ページにねこまきさんの猫マンガ。絶妙な取り合わせで夢中でページを繰りました。全部で89句。龍太さんもあれば…

春闌くる

『時宗の決断』 永井 路子他著 本が読めない。いろいろ摘まんではみるのだが、こういう時代に架空の人物の気ままな情緒に付き合っているのが嫌になって放り出す、というのを繰り返している。幸いこの時期はしなければいけないことがいろいろで(例えば庭仕事…

春祭

『硝子戸のうちそと』 半藤 末利子著 何かで薦められていたのでたくさんの予約の果に借りてきた。茶飲み話、世間話のようなものだが、漱石のお孫さん、半藤一利夫人の世間話である。随分ぶっちゃけた物言いの人だなあというのが一番の感想だ。 最後の方に半…

さくら散る

『俳句と人間』 長谷川 櫂著 春は、なんとなく感傷的な気分になる。時のうつろいがあまりにも早いせいかもしれぬ。三日ばかり又体調不調で寝込んでいたうちに、紅梅は無残に色褪せて散り、桜も木蓮も満開になった。満開の嬉しさに浸るより、いずれもあと二三…

三月

『根に帰る落葉は』 南木 佳士著 久しぶりに著者の新刊広告を見つけ、図書館で検索したが、まだ入っていなかった。代わりに未読の本書を見つけた。文庫本仕様の小型本で、見逃していたのを司書の方に教えてもらう。 いつもながら、40代に患ったという心の…

水温む

『天野忠詩集』 天野 忠著 小舟 若い人は物持ちだから あたりの景色も見ずに どんどん先に行くのもよい。 老人は貧しいから 物惜しみをしなくてはならない。 生から 死に向かって 極めてゆるやかに 自分の船を漕ぎなさい。 あたりの景色を じっくりと見つめ…

囀り

『老いのゆくえ』 黒井 千次著 入浴時膝にくろにえ(岐阜弁で青あざをいう)を見つけた。土曜日に室内の段差で転んだせいだ。まだ薄暗い早朝、ゴミ出しの用意をしようと、電気もつけずにばたばたした。後で思えばスリッパもいいかげんにつっかけただけだった…