読書

春の夢

『隆明だもの』 ハルノ 宵子著 久しぶり自前で購入した本。ハルノさんの本の面白さは『猫だましい』ですでに納得済みだ。Tと連れ合いと三人で回し読みするつもり。 昨日の朝日の読書欄の平川克美氏の書評に立派なことは書かれいるので、ここではどうでもよい…

雪解

『むすんでひらいて』 玄侑 宗久著 Tから回してもらったものだが、なかなか難しくて半分もわからなかった。 玄侑さんに、哲学が専門という大竹さんがいろいろたずねるという形式で、書かれた本である。「いのち」とは何か、「死」とはどういうことなのかと、…

二月尽

『生き物の死にざま はかない命の物語』 稲垣 栄洋著 図書館で自然科学(4類)を借りたのは初めてではないか。以前読んだ『老年の読書』で気になった一冊。 身近な生物(植物も含む)の一生を概観、彼らが「限られた命を懸命に生きる姿を描いた」本である。…

下萌え

『ペンギンの憂鬱』 アンドレイ・クルコフ作 沼田恭子訳 ウクライナの作家である。この本はロシア語で書かれたらしいが、最近の執筆はウクライナ語に変えたと新聞で読んだ。1996年の作で舞台はソビエト連邦の崩壊後。独立はしたものの国家的には混乱が続…

春一番

『道長ものがたり』 山本 淳子著 今話題の「藤原道長」についての本である。巻末にきちんと年表も参考文献もついた学者の方の書であるにもかかわらず素人が読んでも実に面白かった。もちろん書かれるのはテレビとは一線を画した道長の実像だ。 道長は藤原兼…

春寒し

『歌枕』 中里 恒子著 岡武さんがブログで取り上げていた本。どんな文脈での紹介だったかは忘れた。 古風な文体と筋書である。初めての言葉がでてきた。肉池とは前後から予想ができたが、黄白とはいったいなんだろう。お金のことを言うそうで、初耳である。…

春の雪

『灰色の魂』 フィリップ・クローデル著 高橋啓訳 話は、1917年。ドイツとの国境に近いフランスの片田舎での殺人事件から始まる。川面に浮かんだ被害者は村の料理屋の十歳にも満たぬ末娘。「べっぴんさん」とも「昼顔」と呼ばれた妖精のように美しい少女…

春隣

『日本蒙昧前史』 磯崎憲一郎著 先週今週と、心に引っかかっていた内視鏡検査が終わった。概ね問題はなかったが一部生検があり、詳しい結果を聞くのは今月中旬となる。案じていた胃カメラは鎮静剤の使用を選択したため眠っている間に全て終了、全く苦痛はな…

『友ありてこそ、五七五 』東京やなぎ句会編 多士済済の東京やなぎ句会も、小三治さんの逝去で2021年に終焉したことは既に触れた。出版当時(2013)はまだお元気の方も多いが、宗匠光石さん(入船亭扇橋)が脳梗塞で入院、翌年には変哲さん(小沢昭一)の逝去と有…

『ガザに地下鉄が走る日』 岡 真理著 一昨日の新聞によれば、ガザ保健省は、2023年10月7日からのイスラエルの攻撃での死者は2万5105人、負傷者は6万2681人となったと発表した。1948年のナクバ(イスラエルの建国でパレスチナ人が国を追…

冬木立

『映画 Dr.コトー診療所』を観る 久しぶりに映画を観る。去年公開した映画だ。知らなかったが漫画が原作で、何年か前に前作が発表されているようだ。これは前作の後日談ということで、前作をしっている視聴者には懐かしさもあろう。一言で言えばヒューマンド…

初場所

『十二支動物誌』 宮地 伝三郎著 その2 ネズミ ねずみ算というがそんなに増えるものではない。食料を漁るうえで排他的なわばり制がネックになる。ネズミの特徴はのみのような門歯で一日で0・5ミリも伸びる。目はは駄目だが、耳は聡く口ひげも敏感。鼻につ…

『十二支動物誌』 宮地 伝三郎著 その1 年始のチコちゃんでの十二支についての新知識によれば、十二支は中国殷代に始まり南アジアや中東、遠くはトルコまで広まっているらしい。十二支の顔ぶれは国々で多少違いベトナムではウサギの代わりがネコだったり、…

去年今年

『老年の読書』 前田 速夫著 世界各地で争いは続き、いつの間にやら武器輸出、今や戦争は他人事ではなくなりつつあり。一方、この国の相対的地位はあらゆる面で落ち続け、かつての勢いはどこにもない。それでいて、政治は相も変わらず、裏金やら買収やら、日…

年の瀬

今年の三冊 だんだん衰えてきたのか、興味が持てなくて本が読めない。今年は何時もの三分のニほどだ。こんなことで「今年の三冊」もないもんだが、自分の記録として書いておこうと思う。以下三冊。 世界は五反田から始まった 星野博美 縄文文化と日本人 佐々…

柚子湯

『裏日本的 くらい つらい おもい みたい』 正津 勉著 今朝ー0・7度、この冬一番の冷え込み。奥美濃の積雪は40センチと昨夜のニュース。 奥美濃と隣り合った筆者の産土(福井県大野市)も、多分どっしりとした雪ならん。 「ここがいがいに大陸に近くあっ…

風花

『日本人の源流』 齋藤 成也著 NHKBSで「日本人とは何者なのか」という番組を観た。DNA解析を通じて、日本人のルーツに迫ろうという内容で、とても面白かった。 最初に日本列島に棲み着いた縄文人と稲作文化を伝えた弥生人が混血して現日本人の元になったこ…

枯葉

『またたび』 伊藤 比呂美著 三日ほど前から右側の肩甲骨の下辺りが痛くて、鎮痛剤のお世話になっていたが、どうやら回復。今日は陽気も暖かいからと(異様といっていいほどの暖かさ)窓拭きに奮闘する。下の部屋部屋の窓は、どうにか拭き上げたが、二階は知…

時雨

『入り江の幻影』 辺見 庸著 旧友に薦められて読んだ。エッセイとフィクション、重い内容だ。 去年、タモリさんが「2023年を新しい戦前」と捉えたという話を聞いた時、さすがタモリさんだと感心もし納得もした。著者はそれに触れて、今の覚束ない時代を…

冬ざるる

『グレイラットの殺人』 M・W・クレイヴン著 東野さやか訳 新聞の文庫本案内で見つけて読み始めたのはいいが、709ページもあり随分時間がかかってしまった。つまり夢中になるほど面白かったわけではない。 要は復讐譚である。犯罪現場に「グレイラット」…

黄落

『ヤマトコトバの考古学』木村 紀子著 その1 「ヤマトコトバ」とは「大和政権を担った人々の言葉」。万葉集や風土記、記紀などに残った古来の和語と筆者は定義する。いくつかの言語圏との出会いと交わりがあって混成融合したものだという。 今も使う言葉の…

秋の暮

『街道をゆく 耽羅紀行』 司馬 遼太郎著 耽羅とは、済州島の古名である。済州島について読んでみたいと思ったのは、先に朴沙羅さんの『家の歴史を書く』を読んだからである。そこでいくらか知ったが、済州島の歴史や風土に興味ができたからだ。しかし、司馬…

夜長

『殺しへのライン』 アンソニー・ホロヴィッツ著 山田 蘭訳 難しい本はちょっと置いておいて、久しぶりにミステリーである。こういう本は同じ500ページでも難なく読める。 今まで読んだ(ホーソーン&ホロヴィッツシリーズ)の一冊である。ホロヴィッツの…

秋の風

『クワトロ・ラガッツィ 上』 若桑 みどり著 天正少年使節と世界帝国 宣教師が訪れた十六世紀半ばの日本は、戦国時代のまっただ中であった。切腹やら首切りなど血なまぐさい混乱した世情で、民は貧しかった。これをどうしようもない野蛮な民族とみた宣教師も…

今年米

『古文書返却の旅』 網野 善彦著 Tの大量の書籍を渉猟しても、なかなか読みたい本が見つからない。何か面白いのない?と聞いても、そんなものはありませんとにべもない。そんなこんなで見つけた一冊、思いの外面白かった。 終戦直後の1949年、国民の大半…

青林檎

『無人島のふたり』 山本 文緒著 膵臓癌で4ヶ月の余命宣告を受けた作家の病床日記である。この本は俵万智さんの読書案内で知ったが、(俵さんも最近食道癌で放射線治療を受けられたらしい)寡聞にてこの人のことはよく知らなかった。さまざまな賞を受賞され…

露の世

『家(チベ)の歴史を書く』 朴 沙羅著 この人の本は二冊目である。オーラルヒストリーの形式をとった彼女の一族(祖父母から父の兄弟)の話だ。彼女は在日二世の父と日本人の母との間の子どもだが、父の兄弟や祖父母はどんな経緯で日本に住むことになったの…

虫の声

『スウェーデイッシュ・ブーツ』 ヘニング・マンケル著 柳沢由美子訳 刑事ヴァランダー・シリーズの著者による最後の作品である。以前読んだ『イタリアン・シューズ』の続編でもある。筆者は前作の七年後を想定してほしいと言っている。500ページ近い大部…

法師蝉

「昭和史1926−1945」 半藤 一利著 腹立たしさを通り越し、情けなく悲しさきわまる読後感である。 おおよそは既知の事実だが、三百十万ともいわれる命で購った戦いが、ここまでいい加減な成り行きであったとは。 初めて知ったことだが、幾度も止める…

敗戦忌

『ある補充兵の戦い』 大岡 昇平著 重く辛い読後感である。 大岡昇平、補充兵として戦地に送られ、奇跡的に生還するまでを記録した短編集である。いくつかの戦記ものを時系列に並べたもので、一番最初に書かれたのは、『捉まるまで』。マラリアで衰弱し、敵…