下萌え

『ペンギンの憂鬱』 アンドレイ・クルコフ作 沼田恭子訳

 ウクライナの作家である。この本はロシア語で書かれたらしいが、最近の執筆はウクライナ語に変えたと新聞で読んだ。1996年の作で舞台はソビエト連邦の崩壊後。独立はしたものの国家的には混乱が続き、汚職や腐敗があり、マフィアが暗躍していた時代らしい。

 もちろん、この寓話めいた不思議な話は、そんな時代を背景にしている。

 憂鬱性のペンギンと暮らす売れない小説家のヴィクトルは、売り込みに訪れた新聞社から、「死亡記事」を書くことを勧められる。そのうちまだ亡くなっていない人の追悼記事をあらかじめ書くという仕事を任され、指定された著名人の追悼記事を書きづづけていると、対象となった人物が次々亡くなったり、彼のために人を殺してやったという男も現れる。その男の娘を預かったり、突然身を隠すように言われたり、知らないうちに誰かに勝手に部屋に入られたり、ペンギンと一緒に見知らぬ人の葬儀にでさせられたり・・・読者もヴィクトルの不条理に付き合うこととなる。

 それでどうなったか。それは最後まで読まないとわからない。いや、最後まで読んだからといって全部わかったわけでもない。欧米各国でベストセラーになり、何かの暗喩ともみられたようだが、ただの読み物としても面白かった。

  この戦争で知ったウクライナの地名がいくつか出てきて、おやっと想った。ロシアの侵攻から二年、先行きの見えぬ現状に心が重たい。

 

 

       尾を振りふり鴉の我が世下萌ゆる

 

 

 鴉を見ているとその自信ありげな悠然とした姿をからかいたくなる。側から見れば、こっちが馬鹿に見えるのだが。雨近し。剪定をのびのびにしてきた連れ合いは芽が動き出すと気が気でない。例年なら3月10日ごろに咲き出す我が家の遅い紅梅も、もう咲きそうだ。このまま暖かくなればいいのだが、また寒くなるというから花もびっくりするだろうな。