去年今年

『老年の読書』 前田 速夫著

 世界各地で争いは続き、いつの間にやら武器輸出、今や戦争は他人事ではなくなりつつあり。一方、この国の相対的地位はあらゆる面で落ち続け、かつての勢いはどこにもない。それでいて、政治は相も変わらず、裏金やら買収やら、日本製品の信頼性はどこに消えたかという大規模不正。小さな暮らしを守るにも、物価は高止まりして、暮らしにくさは、この上なし。

 何の力も知恵もないトシヨリだから、せめて自分の領域だけは納得していたいと、暮らしの手抜きを避けてはいるが、寄る歳波にはいかんとも。疲れた疲れたとぼやけば、物事はだいたいでいいのやと宣う。何やかんやで帳尻が合わぬのを、無理に合わせて今年も終わる。

 

          凋落のこの国憂ひ去年今年

 

 さて、上記の本、「内外の名著から、よりよく老いるための箴言」を選んだもの。一時期、死を間近に感じた筆者の琴線にふれた言葉のようだが、部分的引用はそれに過ぎない。自分で読むにしかず。気になったいくつかの書名をメモした。

 まずはTの本棚にあった一冊。井伏鱒二の『厄除け詩集』。「上手に年をとる技術」で紹介されていた。いくつかの詩は「とぼけていてユーモラス」だが「作者の心の屈託を想う」とも。

  

 

     なだれ

   峯の雪が裂け

   雪がなだれる

   そのなだれに

   熊が乗ってゐる

   あぐらをかき

   安閑と

   莨(たばこ)をすうような恰好で

   そこに一ぴき熊がゐる

 

 



 

 

押し詰まったこの日、連れ合い(わが家のグリーンフィンガー)は、花苗を買うといってすっ飛んでいった。冬の間に玄関先の庭を整備して芝桜をいれようかと、ちょっともらしたからだ。いくらなんでもまだ早すぎる。寒くなるのはこれからなのに。まあ、やる気満々なら任せましょうか。春には芝桜満開の庭をお見せできるかどうか。

 

 この一年拙い文章をお読みいただきありがとうございました。どうぞ良いお年をお迎えください。あまり期待はもてませんが、来年こそは平和がくるといいですね。