春落暉

映画『パーフェクトディズ』を観る 

 言わずと知れたヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演の映画である。U-NXTで配信されるのが待ちきれず大雨の中映画館に出かけた。家族揃っての鑑賞で、初めての体験だ。

 さて、映画である。文句なくいい映画で、今も劇中の音楽を聞きながら、余韻に浸っている。

 毎日早朝に目覚め、日の出とともにトイレ掃除の仕事に出かける。仕事はきっちりと手を抜かず、木漏れ日の写真にこだわり、小さな植物を育てる。テレビやネットの情報に振り回されることもなく、労働の後は少し飲み、就寝前には静かに読書をする。「丈夫な体を持ち 欲はなく 決していからず いつも静かに笑っている。」平山とはそんな人物。

 全くの推測でしかないが、ヴィム・ヴェンダーズは「禅」にもかなり造詣が深いのではないか。思い浮かんだのは「日日是好日」という言葉。玄侑さんは「日日是好日」について、昨日と今日は「基本的に関係ない。昨日と関係なく新しい一日に出逢ったのだから、それが雨であろうと嵐であろうとみな新鮮で佳い日なのである」と説かれる。一日一日がパーフェクトデイ。明日とか昨日にとらわれず、「今」することを楽しめとも。そう言えば「いつかはいつか 今は今」という平山の言葉もあった。

 挿入曲は、音楽音痴の私にもどれも良かった。最後、平山が運転をしながら聞く曲「Feeling Good」は平山の気持ちを代弁するものであり、彼の法悦とも見える喜びに満ちた笑顔や潤んだ瞳とともに、実に感動的であった。

 なかなか渋いと思ったことが一点、濡らした新聞紙をちぎって撒き、埃を抑えながら掃除をする場面。昔、やったなあと感慨深かったが、あれはいつ頃までのことだったろうか。脚本はヴィム・ヴェンダースと高橋卓馬とあったが、あれは高橋氏の体験だろうか。

 平山の暮らしは、情報の波に振り回され、ものにまみれた私たちの暮らしと対極にある暮らしだ。あまりに多くを望みすぎて、日々の暮らしを楽しむことを忘れているのかもしれない私たち。平山はそんなことを教えてくれた気がする。

 

 

       雨上がり野のさえざえと春落暉

 

 映画館を出たらさすがの大雨が上がっていた。畑に水が溜まるほどの降りだったようだ。

 

ハナニラ