秋光

『還れぬ家』  佐伯 一麦著

 『ア・ルース・ボーイ』のその後を読みたいと、佐伯さんの本を二冊借りてきた。年月を辿って読んでいくつもりだったのだが、この本の惹句で一挙に三十年後の話を読むことになった。

 高校生の時家出同然のように家を出て、親にも深いわだかまりがあった筆者。父親が認知症となり、母親が介護に振り回される中で、否応もなく老いた親の世話という現実と向き合わざるを得なくなる。後半の「手記」によれば、発症の認定から亡くなるまではわずか一年ということがわかったのだが、問題は次から次と持ち込まれる。認知症の父の感情爆発や病気の治療拒否。母親の介護疲れと病気。介護施設捜し。父親の病状悪化と入院。

 「老いる」とはこういうことなのか。呆ければなおさら、そうでなくても子どもに尻を持ち込まずにはいられない現実。遠くない先にそういう現実が確かだと思うと、他人事と思えない。

 筆者のお連れ合いの明るさがいい。父親の介護を通して複雑な思いのあった母親とも、自然と和解出来ていくのが救いだ。

 父の死の二年後、東日本大震災が起きる。一時は都会に住む長兄の元に避難した母が、住み慣れた家で、一人暮らし始めるところで話は終わる。

 かなりの長編であったが、惹き込まれて一気に読んだ。尚、この本は2014年毎日芸術賞を受賞している。

 

 

 

 

        秋光や喪服の人と同船す