大根蒔く

映画『プラン75』を観る

 昨年の話題の社会派映画である。カンヌ映画祭でも評価されてカメラドールの次点に選ばれたらしい。(もっともこれがどういう賞なのかは知らない)

 高齢化社会に悩む将来の日本が舞台。75歳になったら生死が自由に選べる制度ができる。貧しい高齢者の角田ミチ(倍賞千恵子)は、ホテルの清掃員として働いていたが、高齢を理由に解雇される。再就職の手立ては見つからず、行政の支援を受けるにゆくも敷居が高い。「プラン75」という制度があることを知って、申込みを決意する。申し込みで支給される十万円でつかの間の贅沢、支援員という女性との久しぶりの温かい交流。そして、彼女はすべてを片付けて当日を迎えるのだが・・・。

 綺麗に整備された病院と紛うようなガス室。亡くなった人々の遺品を黙々と分類する人たち。これはアウシュヴィッツの現代版ではないかとおぞましく感じた。こういう極端な未来像を描くのも社会的警鐘と言えるのか。正直嫌な気分にしかならなかった。

 「生産性の低い高齢者は社会にとってお荷物なのか。昨今の『生産性至上主義』風潮に危惧をおぼえる」と、ネットで読んだ老年医学の和田医師の意見である。高齢者を働かせたり、女性の社会進出を促したりする「生産性神話」より所得の再分配による消費の勧めのほうが経済的効果は大きいというのが和田氏の考えである。

  高齢者社会の問題は「老年格差・貧困高齢者問題」にあると思われる。歳をとるのは誰にとっても自明の理で、いつまでも働くことができないのも自明の理である。安心して歳をとることができる社会制度の構築、さまざまな事情で暮らしが成り立たない人は社会全体で助けてゆく、そういう未来の社会こそ映像で観せてほしいものだ.

 今日は彼岸の入りで、久しぶりに墓参りをする。川端の彼岸花がやっと咲き始めた。例年よりずっと遅いのは暑さのせいだろうか。

 雨である。この雨の後はやや涼しくなるというから期待したい。

 

 

       9.11今年も大根蒔いてをり

 

 

 あの惨事の日にも、連れ合いは大根を蒔いていたと思いだした。