夏出水

『女たちの壬申の乱』 水谷 千秋著 壬申の乱についての著書はいろいろあるが、この本はこの乱に巻き込まれた女性たちに特化した一冊である。書記や万葉集を史料にして、筆者自身の新しい知見もあり、興味深い内容であった。 多くの女性たちの中でも、一番の…

水無月

奥飛騨旅行 一日目 県民割と旅コインの制度を使わせてもらって、小旅行をしようと思い立つ。制度利用の期限も間近く、天気の安定期間も考え、急遽宿の予約をする。二・三日前だったので空きも少なかったが、障害者の当方でも気兼ねなく温泉につかれそうで、…

梅雨明

『戦争は女の顔をしていない』 スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ著 三浦みどり訳 第二次世界大戦でのソビエットの戦死者は1450万人とも言われ、桁外れに多い。そして、この本によれば、100万人を越える女性も兵士として戦ったそうだ。十代の後半か…

明易し

『生きて帰ってきた男』 小熊 英二著 これは、著者が自身の父親(謙二さん)の聞き手になって編んだ、オーラルヒストリーである。 大正末年に生まれた彼は、当時の庶民的な暮らしの中で成長、満19歳で招集された。1944年のことで、すでに日本には満足…

ビール

昔がたりをする。 地方版に「戦争を語る」というコラムが不定期で掲載されている。先日、隣町の95歳の男性の体験談を読んでいて、名前に聞き覚えのあるような気がした。戦後、高校教師になったというくだりを読んで、はたと思い出し、旧友にメールをする。…

『ウマし』 伊藤 比呂美著 伊藤さん好きのTから回ってきた。こちらも好きだからすぐ読む。難しいことはなんにもない。好きな食い物、懐かしい食い物、嫌いな食い物にまつわるエッセイ。別の本で、検診の結果「食べすぎ」と一刀両断にされて落ち込でおられた…

夏の空

弥生遺跡と木曽三川公園へ 本格的な暑さになる前にと、近場へ。 まずは愛知県清須市にある「あいち朝日遺跡ミュージアム」。紀元前6世紀から紀元後4世紀まで営まれた大規模な集落跡である。清須のインターチェンジの建設で発掘された遺跡で、日本でも有数…

片かげり

『評伝 石牟礼道子』米本 浩二著 良かったからとTに回してもらう。確かに興味深い中身であった。そして、ただただ石牟礼道子というただならぬ精神に圧倒された。 あとがきで著者は「石牟礼道子の場合は底が見えない。」と書き、解説で池澤夏樹は著者の努力に…

はつ夏

此の時期の厨仕事をする。 お店に青梅が出ている。青々とした可愛らしさで買いたくなるが、買ってどうするか。うちは梅干しはほとんど食べないから、梅干しは漬けない。欲しいのは底をついた梅醤油だが、梅一キロは多い。「焼酎に漬けたら飲むから、作ってく…

明易し

『芭蕉の風景 下』 小澤 實著 いよいよ芭蕉の最晩年である。 元禄七年春、芭蕉五十一歳。最後となる春を江戸で過ごし、初夏、西を目指して旅立つ。同行は身辺の手助けをする少年次郎兵衛のみ。途中名古屋に足を止め、古い門人の荷兮らと歌仙を巻くが、どうも…

柿若葉

『芭蕉の風景 下』 小澤 實著 やっと下巻の三分の二あたりまで読了。 「おくのほそ道」から帰った芭蕉は、その後郷里伊賀や大津、京都と関西で暮らす。関西から江戸に帰って五十歳までの五年間、小澤さんはこの間を「上方漂白の頃」と名付けて一章とされてい…

風薫る

『芭蕉の風景 下』 小澤 實著 下巻の前半分弱は『おくのほそ道』の句を辿る話である。 芭蕉が陸奥へ旅立ったのは「更科紀行」から帰りて半年後、春三月のことである。四十六歳、百五十五日、2400キロの長旅である。同行者は曽良。彼が後に幕府の巡見使と…

若葉雨

『芭蕉の風景 上』 小澤 實著 上巻の残りを読む。紀行文『笈の小文』の部分である。芭蕉四十四歳、伊賀上野から伊勢に参り、吉野、和歌浦、奈良、明石須磨と巡る旅。米取引で罪を得て逼塞中の杜国を誘っての旅でもある。 折々の俳句が先人たちの古歌を踏まえ…

夏草

『芭蕉の風景 上』 小澤 實著 前々から気にかかっていた本を読み始める。まずは上巻の半分、芭蕉四十代初めのころまでである。伊賀上野から江戸に出てきて日本橋辺りから深川に住み替え、野ざらし紀行に出かけるまで(芭蕉四十一歳から四十四歳)。この間の…

走り梅雨

『やさしい猫』 中島 京子著 たまたまこの本の名前が出てきた時、旧友は「たいした本じゃないけど」と言ったのだ。予約を入れていた私はそのまま借りたが、期待しないで読み始めた。だが、実に面白かった。複雑な心理描写もなく読みやすかった。最後がハッピ…

植田

蒲生野と近江八幡 「こころ旅」を見ていて、近江行きを思い立つ。近江は何度も訪れてはいるが、まだまだ見たいところは多い。今回は「近江の国宝建築巡り」と称してプランをつくる。 まずは名神高速の蒲生ICで下りて苗村神社へ。延喜式神名帳にも名のある古…

みどり

『スットン経』 諏訪 哲史著 「ちっとも読めない」と愚痴っていたら、古友達が「面白かったよ」と薦めてくれた一冊。連休があったり、気がのらなかったりと何日もかかって読了。たまにはなにか書かないとお客さんが皆無になりそうで、意味もない感想を少し。…

桜海老

『NHKスペシャル 見えた 何が 永遠が 立花隆最後の旅』 この4月30日は立花さんの一周忌に当たるらしく、親交のあったデレクターによる追悼番組である。死の半年後、知の巣窟ともいう「猫ハウス」の書棚が、きれいに空になっていた。それに驚いたところか…

春惜しむ

不調の原因判明 昨年は三回、今年になって二回、突然の高熱と胃腸障害の原因と思われるものが判明した。血液検査の結果、ある病気の初期症状とわかったのだ。またまた厄介なものを抱え込んだという気持ちである。一度大病を患うとストレスで別の病を引きずる…

静岡紀行 一日目 コロナの収束はおぼつかないが、ワクチンを三回接種したこともあり最大限人密を避けることにして出かける。従って今回は車での移動中心。 朝8時前に自宅出発。東名高速で、まずは昼食予定の焼津を目指す。途中上郷SAと浜名湖SAで休息。今回…

仔猫

『ねこのほそみち』 堀本 裕樹・ねこまき著 たわいない本をとお笑いめさるな。実に楽しい本でした。右ページに猫の俳句と堀本さんの鑑賞文。左ページにねこまきさんの猫マンガ。絶妙な取り合わせで夢中でページを繰りました。全部で89句。龍太さんもあれば…

春闌くる

『時宗の決断』 永井 路子他著 本が読めない。いろいろ摘まんではみるのだが、こういう時代に架空の人物の気ままな情緒に付き合っているのが嫌になって放り出す、というのを繰り返している。幸いこの時期はしなければいけないことがいろいろで(例えば庭仕事…

春祭

『硝子戸のうちそと』 半藤 末利子著 何かで薦められていたのでたくさんの予約の果に借りてきた。茶飲み話、世間話のようなものだが、漱石のお孫さん、半藤一利夫人の世間話である。随分ぶっちゃけた物言いの人だなあというのが一番の感想だ。 最後の方に半…

さくら散る

『俳句と人間』 長谷川 櫂著 春は、なんとなく感傷的な気分になる。時のうつろいがあまりにも早いせいかもしれぬ。三日ばかり又体調不調で寝込んでいたうちに、紅梅は無残に色褪せて散り、桜も木蓮も満開になった。満開の嬉しさに浸るより、いずれもあと二三…

春うれひ

『北条氏と鎌倉幕府』 細川 重男著 「鎌倉殿と13人」を見ている。おぼろげにしか知らぬ歴史を、おさらいしようと借りてくる。 読めば読むほど凄惨な時代である。結局頼朝の兄弟やら子はみな悲惨な死を遂げ、頼朝の家系は断絶。合議制のメンバーたちも何人…

三月

『根に帰る落葉は』 南木 佳士著 久しぶりに著者の新刊広告を見つけ、図書館で検索したが、まだ入っていなかった。代わりに未読の本書を見つけた。文庫本仕様の小型本で、見逃していたのを司書の方に教えてもらう。 いつもながら、40代に患ったという心の…

水温む

『天野忠詩集』 天野 忠著 小舟 若い人は物持ちだから あたりの景色も見ずに どんどん先に行くのもよい。 老人は貧しいから 物惜しみをしなくてはならない。 生から 死に向かって 極めてゆるやかに 自分の船を漕ぎなさい。 あたりの景色を じっくりと見つめ…

春風

『土偶を読む』 竹倉 史人著 土偶とは一体何をかたどっているのか。豊穣を願う妊娠女性像かと言われながらも、今一歩説得力ある説明がなかった。が、この本の仮説は実に面白かった。 筆者は土偶の形態を具体的に分析する方法で次のように仮説を立てた。つま…

囀り

『老いのゆくえ』 黒井 千次著 入浴時膝にくろにえ(岐阜弁で青あざをいう)を見つけた。土曜日に室内の段差で転んだせいだ。まだ薄暗い早朝、ゴミ出しの用意をしようと、電気もつけずにばたばたした。後で思えばスリッパもいいかげんにつっかけただけだった…

雛の夜

<岐阜県博物館へ「岐阜の縄文世界」展を見にゆく> 1月からの展示会もコロナで遠慮しているうちに会期も終わりに近づいた。寒さが緩んでワクチンも打った機会にとでかける。気遣うほどのことはなく、展示会見学者はわが家族だけ。駐車場の車はもっぱら里山…