三月

『根に帰る落葉は』 南木 佳士著

 久しぶりに著者の新刊広告を見つけ、図書館で検索したが、まだ入っていなかった。代わりに未読の本書を見つけた。文庫本仕様の小型本で、見逃していたのを司書の方に教えてもらう。

 いつもながら、40代に患ったという心の病から平穏さを取り戻したという話だが、静謐な書きっぷりにいつもどおりと思いながらも、読まされる。いろいろあったが、この方も穏やかな老年期を迎えられたのだと、己の来し方も含めてつくづく過ぎてきた年月を思う。

 六十五歳の誕生日にふれた文を読む。前期高齢者になったけじめの誕生日、夕食のメニューに、うどんとじゃがいもの天ぷら、きんぴらごぼうを妻に所望する。いずれも昔上州の山村で母代わりの祖母が作ってくれた大好物である。その思い出のごちそうを、幼い頃逝った母や祖母の位牌を置く仏壇に供えて、なにげなく合掌したら、思わず落涙したという話である。

「人生の得失は常に等価なのだろうか。高齢化とともに、諦念と引き換えに得たもののありがたさが身に沁みる」という感慨。「心身ともに『快』である以上の人生の目的はもうない」という想い。いずれも我が身にとっても、思い至るものである。

 

 

 

           三月やマリウポリてふ名のこびりつく

 

 

 

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明日は、三月の名を負う子の誕生日である。今年は彼女の記念樹がぴったりと満開になった。