走り梅雨

『やさしい猫』 中島 京子著

 たまたまこの本の名前が出てきた時、旧友は「たいした本じゃないけど」と言ったのだ。予約を入れていた私はそのまま借りたが、期待しないで読み始めた。だが、実に面白かった。複雑な心理描写もなく読みやすかった。最後がハッピエンドだということも勿論いい。(三島はハッピエンドでないと騙された気分になるといったらしいが。)逆に旧友が好評価をしなかったのはそのあたりかもしれないとも思った。

 スリランカ人のウィシュマさんが名古屋出入国在留管理局で収容中に亡くなったというニュースは、確か去年のことであった。この問題はいまでも裁判で係争中と思うが、以前から日本の非人権的入管行政は問題視されていた。それをこの国の人間として恥しいと思いながらも、外国籍の人のことだからと関心が乏しかったのも事実だ。この件で「外国人だから帰れと言われれば帰ればいいのじゃない」と言った知り合いもいた。

 この本はそういった問題にわかりやすく切り込んだ本である。

 スリランカ人の男性と日本人の女性が恋をして結婚しようとした時、彼は失業した。何とか職をと苦戦している間に在留カードが切れてしまったので、入管施設に相談に行ったら、収監されてしまう。家族の積極的な働き掛けにも入管職員は一方的に悪意に解釈して取り合ってくれない。一年以上に渡る仮放免申請や裁判を経て、やっと家族の元に帰れたというのが大筋だが、本来は裁判で勝訴するなどというのは皆無らしい。

 同じ本に埼玉に住むクルド人の少年の未来が閉ざされている話もでてきたが、ちょうど昨日の夕刊の映画紹介欄(プレミアシート)に同じような話があった。「マイスモールランド」という映画でこちらはクルド人の少女の場合だ。この国に生まれこの国で育ったにもかかわらず在留資格が得られず移動の自由も就労の自由もないという。

 労働人口が減って、外国人の働き手が欲しいと言いながらこの矛盾は一体何だろう。

 入管行政を司る法務省というのが人権擁護機関も司るというのも不思議だ。私は長い間その人権擁護局で人権相談に携ってきたが、人権課の人は実に人権擁護にまじめだった。この本に入国管理局の裁量が大きすぎるから問題だというくだりがあるが、彼等は彼等で日本人が偽装結婚などで騙されないようにひたすら職務に忠実なだけなのだろうか。外国人というだけで偏見の目で見がちな日本人の内向き志向にも一因があるに違いないが、やはり制度的な問題点があるにちがいない。

 

 

  

       餌ねだる二羽の子雀走り梅雨