椿

『ぼけますから、よろしくお願いします。  おかえりお母さん』 信友 直子著

 先にU-NEXTで観た映画の続編である。すでに去年劇場公開はされているようだが、U-NEXTでは観られないので、本を借りた。

 介護サービスを利用されて二年、時に問題が発生しても家族の愛とプロの熱意で、自宅で過ごしておられたお母さん、猛暑の脱水状態がたたったのか脳梗塞を発症される。左半身が完全麻痺となられたが、逆に認知症の自覚は軽減されたという。家に帰りたい一心で懸命にリハビリをされ、お父さんも毎日一時間をかけて通院、献身的に介護された。この頃を、筆者は「神様からの贈り物」と名付けたほど、穏やかな時間だったようだ。

しかし、三ヶ月後に再び脳梗塞、今度は右半身の麻痺となられ、その後は寝たきり。胃ろうをされて一年後に亡くなられた。

 さて、この本から受けとったのは、何よりもその家族愛である。それはきれいごとではない。病気のせいでわがままな幼児のようになっていく妻や母親を、おおらかに包む夫と努力しても愛そうとする娘。お母さんが亡くなった時、「心を占めたのは悲しみよりも安堵だった」という筆者の告白。わかるなあ、その気持ち。老親を介護した者なら、そういうどす黒い気持ちは決して忘れられないはず。その点で、 「介護はプロとシェアしなさい」という専門家のアドバイスは多くの介護者を助けてくれる言葉だ。

一方、介護される側予備群としては、夫婦の「揺るぎないバディ感」を見習いたい。101歳になっても好奇心を失わぬ前向きなお父さんの暮らしぶりも、「まあ、しようがない」と受け流すおおらかさも。

 

 

         赤大輪白大輪と椿咲く