ぼたん雪

『日本史の内幕』  磯田 道史著

 今や売れっ子の磯田さんの本である。全体に歴史小話といったもので何ということはないのだが、読後興味をもってネットで調べてみた件が二つある。

 沼津の「高尾山古墳」の話と江戸時代の儒学者「中根東里」の話である。前者は卑弥呼と同時代に築かれたと思われる前方後方墓で全長62メートルの東国最大の古墳の話である。ひょっとしたら卑弥呼と敵対していた狗奴国の王墓かもしれぬとある。東海地方の狗奴国説などまさかと思っていただけにこんな事例を見せられるとますます混乱してきた。弥生時代後期は我々が想像する以上に各地に力をもった豪族が群雄割拠していた時代のようだ。今この古墳は道路計画との関連でなかなか折り合いがついていないようだが、なんとか保存してもらいたいものだ。

 さて後者の「中根東里」のことである。大変な天才らしい。小坊主の頃お経の漢文には本来の音があることに気づき、黄檗宗萬福寺の中国僧に弟子入り、中国語を身につける。また、年少にして大蔵経全巻を読破したというのである。しかし、名前が後世に残ることを嫌って自著はすべて燃やしてしまったという含羞の人でもあった。たつきのために学問を売ることも嫌い竹皮の草履を売って生計を立てたともいう。後年人に頼まれ下野国の田舎で塾を営んで子どもたちを慈しんだというが、この地では今もその偉大さが語り継がれているらしい。もちろん我が身には初めて聞いた名前である。

 それにしても磯田さんの古文書渉猟は凄いものだ。上記の話は違うが、ここの小話の多くはその結果である。磯田さんは少年時代に独学で古文書が読めるようになったらしいが中根東里なみである。私も以前四・五年古文書解読をやりそれなりに読めるようになったのだが、忙しくなって止めてしまった。今思うと少し残念である。頼まれて解読したのがひとつだけあったのだが詳しいことは忘れてしまった。人生にもしということはないが、あれば歴史学がいいかななどと思ったりした。

 

 

 首都圏は雪のようだがこちらはまだ降ってはいない。掲載句は先日の雪の折りの句。昨日までと一転かなり寒い。

 

 

 

 

       ぼたん雪地に着くまでをみとどけり