『夢見る帝国図書館』 中島 京子著
世間離れした雰囲気で、謎めいた過去をもつ「喜和子」さん。どうやら彼女の過去は、帝国図書館と関連があるらしい。図書館を主人公にした話を書いてほしいと、喜和子さんに頼まれていた私。彼女の死をきっかけに、謎に包まれた彼女の過去を探り始める。
わかってきたのは戦後の上野の図書館界隈、葵部落といわれた生活困窮者の人々の群れと孤児と思われた幼い女の子とその面倒を見る復員兵たち。
ところどころに帝国図書館の物語が、挟まる。乏しい予算の中で、近代国家の体裁のために開館した帝国図書館。軍備増強のために、厳しい運営に終始しながら、それでもさまざまな文化人たちを包容してきた歴史。
中でも芥川龍之介や谷崎潤一郎とインド人マティラム・ミスラ氏の出会いは興味深い。二人は彼から「ハッサン・カンの妖術」見せてもらい、その経験を本にしている。
谷崎の『ハッサン・カンの妖術』は未読だが、芥川の『魔術』は青空文庫でも読める。印象に残る短編だ。
かっての帝国図書館は、国際子ども図書館としてリニューアル、今も美しい姿を見ることができるらしい。「きれいになって、なんだか入りにくくなっちゃった」と喜和子さんは不満だったようだが・・・。
麦の秋ゴッホの色に染まりけり