冬籠

『JR上野駅公園口』 柳 美里著

 最近テレビのテロップに「人身事故のため〇〇線の〇〇駅と〇〇駅間不通」と出ることが多い。もしやコロナのせいかと重い気持ちになるのだが、東京などではニュースにもならぬほど、その手の自殺は多いらしい。

 先の陛下と同じ年に生まれ、東北の極貧家庭から東京へ出稼ぎ、変貌するこの国の下働きを務め、家族を養い、充分報われていいはずだったのに、老いてホームレスにならざるを得なかった、まさに「運の悪さ」をもって死んだ男。そして、死んでも追い打ちかけるように孫娘を奪った「東日本大震災」。

 天皇、皇后の行啓行などで上野公園のホームレス狩りが一斉に行われるということは初めて知った。どちらかと言えば弱者に心を寄せられている皇室にとっては、意に反したことではないだろうか。オリンピックに向けてきれい(?)にされてきたという公園辺りのテント村は、この厳しい状況下で今はどうであろう。厚労省生活保護は国民の権利であるから受けるように勧めていると聞いたが、受けるのをいさぎよしとしない人も多いらしい。「自助」などという言葉は言いたい奴には言わせておいて、権利を受けてほしい。私なぞも自腹で買おうと思えば買えるが、障害に伴う用具の購入援助を受けて助かっている。

 この本は2020年の全米図書賞(翻訳部門)受賞作品である。上梓されたのは七年ほど前であるが、コロナ禍という多くの人が生きることに四苦八苦している今の時代だからこそ、よけいに胸に響くものがあると思う。

 

 さんざん迷っていたが、昨日運転免許更新のための「高齢者講習」を受けてきた。やってみればたいしたことはなく、もう一回だけ更新することにした。もっともそれほど乗るつもりはないのだが。

 

 

 

 

         陰に陽に強いられてをり冬籠

 

 

 

 

JR上野駅公園口

JR上野駅公園口

  • 作者:柳 美里
  • 発売日: 2014/03/19
  • メディア: 単行本

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