しぐれ

 昨日一昨日と富山に出かけた。富山はお隣の県なのだが富山市は一度も訪れたことがない。たまたまネットで美味しそうなお鮨の写真を見て、出かけようとなった次第である。我が家から富山へは高速道(東海北陸自動車道)一本で北上するから紅葉も楽しめるに違いないと踏んでのことである。

一日目

 さて、天気を選んで出かけたのだが心がけのせいかいつも直前にあやしくなり、目的地には雨マークまでついた。岐阜県をまっすぐ縦断、奥美濃・飛騨と山岳地帯を抜けるルートでトンネルまたトンネルの連続、一番長かったのは11キロもあり運転手は気が抜けない。トンネルの間の山々はまさに全山紅葉の真っ盛り。陳腐な表現だが燃え立つような山々である。

 最初の目的地は富山県の「五箇山菅沼合掌集落」である。実はここの手前に岐阜県の合掌集落「白川郷」があるのだが、素朴さを求めてあえてこちらにした。しかしここも集落の谷に下りるのにエレベーターやトンネルが整備されており観光化されているのはしかたがない。たまたま訪れた人間がメルヘンチックな想いを抱くのは勝手だろうがこの辺は相当の豪雪地帯だから冬場の暮らしは本当に大変だろうと思う。家屋によってはすでにしっかりとした雪囲いがなされている。

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 二つ目の目的地は高岡市の「瑞龍寺」である。富山県に入るとぱらついてきて、まったく北国の空は時雨れやすい。拝観時にはとうとう雨傘の登場となった。「瑞龍寺」は加賀二代藩主前田利長公の菩提寺である。曹洞宗のお寺で総門・山門・仏殿・法堂を一直線に配列し、左右を禅堂・大庫裏・回廊で囲った大伽藍である。昔一度訪れたことがあるが夫は初めてである。その当時はまだであったが今は山門・仏殿・法堂が国宝に指定されている。仏殿の仏様についてあれこれせんさくしていたら禅僧の方に声をかけられた。ここをお守りされている方で大寺をたった二人で守っておられるらしい。「修行以上に大変ですわ」と笑っておられたが、そうであろう。利長公に纏わるお話を聞かせてくださりいい思い出になった。

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 この後同じ高岡の街で「高岡大仏」を参拝。高岡は鋳物の街なので大仏さまは銅製である。

幸いなことにしぐれもひと休みで私達はもう少し北上して日本海に出る。富山湾のこの一角「雨晴らし海岸」は渚百選にも選ばれた景勝の地で、逃避行の義経主従が雨宿りをした義経岩や女岩・男岩が有名だ。天気次第では遥かに立山連峰も見られると言うがあいにくである。渚際に瀟洒な「道の駅」が出来てコーヒーをいただきながら海が見られる。海なし県の者にとってはいつも海は文句なく素晴らしい。傍らに芭蕉の句碑がある。

 わせの香やわけ入る右は有磯海  芭蕉 

この辺りは「有磯海」というらしい。併記されているのは大伴家持の歌で、これは彼が越中の国守だったことに由来すると思われる。

 

 

   しぐるるや小貝をひろふ有磯海

 

 

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 近くに越中一宮気多神社があるというので寄る。高い階段を上った先、山懐に鎮座されるのはオオクニヌシの命とヌナカワヒメ古事記の愛の物語を思い出させる。社殿に掛かった「一宮」という額が空海の真筆であるとあったがまさか本物ではあるまいと、不信心な私達は疑った。

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 これで一日目の予定は終わったのだが本当はこれからがメイン、そもそもの旅の目的である。ホテルで少し休んでから予約を入れておいた鮨屋さんに出向く。「富山湾鮨」の会席である。「富山湾鮨」というのは富山湾でとれたものを握った鮨らしくネットの写真で見る限りでは実に美味しそうだ。さてさて実際はどうであったか。確かに新鮮で美味しかった。地元でしか食べられないという「しろえび」は特に秀逸であった。ただシャリが少し温いように感じたのは気のせいでしょうか。

 夜ともなればコートとマフラーがほしくなるほど冷えてきた一日目だった。

二日目

 朝のうちは時雨れていたが風は強いが抜けるような青空になる。本当は「富山県美術館」に行くつもりだったが二日間の日程を入れ替えたのであいにくの休館日に当たってしまった。街なかの散策もいいかとホテルに車は置いて歩いて廻る。まず行ったのは「富山市ガラス美術館」。隈研吾設計のおそろしくモダンな建物である。エミール・ガレーなどと違って最近のガラス作品は見たことがないのだが、みんなとても美しい。割れ物なので黒子の監視員の人が多い。ひと通り見て併設のショップも覗く。綺麗で欲しくなるがものは増やさないとがまんがまん。

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 富山市は市電の走る街である。乗ってみるのもいいなと思っていたがそれは出来ず、目だけで楽しむ。相対的にバスが少ないせいか街路が広々としている。あちこちに生花が飾られ(初めは造花だと思っていた)町興しのコンセプトのひとつなのかガラス作品も展示されている。Tなどは岐阜市と比べて感心しきりである。旧城下町なので城址公園にも行く。天守閣は復元であるが門が一基残っている。

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 この後は車を出して市の東部の「富岩運河環水公園」へ。運河をいかした親水公園である。水上クルーズもあるが私達は野鳥を見たりしてぐるりと廻っただけ。風がころころと木の葉をころがしてやや寒いが気持ちの良い景色だ。

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 さてさて、この後昼食探しのハプニングなどもあったのだが、これで二日間の旅は概ね無事終了。一路家路を目指すことになる。

 高速に入ったらまたまた降り出してきて、やはり「北国の空は時雨やすきかな。」

 

 

 

     銀杏散る路面電車の似合ふ街

 

 

         *写真の何枚かはTからもらいました。