冬に入る

『さみしいネコ』 早川 良一郎著

 池内紀さんの編集による「大人の本棚」の一冊である。能文家の池内さんの折り紙付きだけに、気持ちのいい文章だ。洒脱で軽妙、ユーモアがありしゃれている。

 池内さんの「解説」によれば「五十歳を過ぎて文筆に目覚めた人」らしい。大正生まれ、定年間近から定年後の身辺雑記を書き、余生十二年で亡くなった。刊行された二冊の内、これは定年後の日々を眺めたもの。パイプを磨き、銀座をぶらつき、チョビ(愛犬)と散歩して「いつものほほんと澄んだ空気のかたまりのよう」(池内さんの評)に生きた人。

 余生十二年とは、今ならいかにも短いではないかと思うが、「長すぎもせず短すぎもせず、わが手本と考えている」と池内さん。かの人もまた、短い余生であった。

 

 

 

      異常日の記録重ねて冬に入る

 

 

 

 今日立冬。昼間の気温は高く冬入りの感じは持てない。花の少なくなった庭の石蕗に蝶がいっぱい来ている。