春の暮

映画『川っぺりムコリッタ』  荻上 直子脚本・監督

 雨の日だから花豆を煮て、映画を観る。前にも書いたが、荻上さんは好きな監督で、結論から言えば、今までの作品で一番良かった。

 服役の過去を持った山田(松山ケンイチ)は、出所して塩辛工場に職を得る。事情もわかった社長(緒方直人)は住まいも紹介してくれ、励ましてもくれるが、なかなか心を開くことは出来ない。

 ところが、住まいの隣人島田(ムロツヨシ)は、そんな山田の閉ざされた世界に容赦なく踏み込んでくる。ミニマリストと称する彼は、貧乏を切り札に自家製の野菜を手に、風呂を借りに来、食事を食べに来る。一人で食べるより二人のほうが美味しい。採れたての胡瓜を齧る幸せ、そんな小さな幸せをいくつか見つけていけば、生きていけると持論を展開する。

 ある日、役所から山田に、父親が孤独死したと連絡が入る。四歳の時に別れて以来音信不通だった父親である。島田に促されて遺骨を引き取った山田だが・・・

 ムコリッタとは仏教的時間の名前らしいが、ここでは今生きてる時間をいうのかもしれない。小さなボロ借家でお金に不自由しながらも生きている、みんな何となくおかしな人だが、悪い人はひとりもいない。いつの間にか笑うようになった山田が、僕なんかが笑っていいのかと自戒する時、大家(満島ひかり)の女性は、山田の父親の葬式を提案する。

 みんなのにぎやかな手作りの葬式で、人知れず孤独死した山田の父親もきっと成仏したにちがいないと、そう思わせるエンディングだった。

 

荻上さんはいつもいい作品を撮られる。もうすぐ次の作品も公開されるようだ。

 

 

         もう届かぬ夕刊春の暮

 

 夕刊はあと三日でおしまいです。

 

ノボリフジ