『兄の終い』 村井 理子著
村井さんは、新潮社のネットサイト「Webでも考える人」で知った。「村井さんちの生活」という家族の話で気軽に読ましていただいていた。ある日の記事に長く疎遠だったお兄さんを送ったという話があり、それが普通の見送り方ではなかったので少しこだわりが残った。Tは「兄妹なのに随分だなあ。」と言い、いい感情はもてないようであった。
その兄への永年のわだかまりと兄の突然な死の顛末を書いたのがこの本である。前回の本で養老さんは「死は常に二人称として存在するのです」といっておられたが、まさにそうである。遠く離れた土地で貧困の内に兄が突然死する。発見者は彼の幼い息子。警察署からの電話で筆者は始めてそれを知る。かっては優しかった兄だが長ずるにしたがって身勝手な金の無心ばかりをするようになり、筆者は没交渉を決めていたのだ。しかし、ただ一人の身近な身内として行かないわけには行かない。彼の別れた妻と遺体の引き取りから葬儀、遺品の整理と残された息子のケア。大奮闘の三日間プラス二日間。
汚れた部屋に貼られ幸せだった日々の家族写真や妹の活躍を記す新聞広告の切り抜き。筆者は迷惑をかけるばかりであった顔とは別の昔の優しかった兄を思い出す。
ああ、人生はなかなかままならないもんですなあ。そやけどお兄さんを許してあげられてよろしゅうおました。
鵙の秋今も煙たき兄であり
オクラ