『暗い林を抜けて』 黒川 創著
黒川さんの小説二冊目読了である。惹句に「ままならない人生のほのかな輝きを描く最新長編小説」とある。
案外惹き込まれて読んだのだが正直言って感情移入の出来るところは少なかった。
主人公は初老に達しようという新聞記者である。働き盛りに癌を患う。ステージⅠの大腸癌である。順調に回復して五年検診もクリア、半年遅れた六年目目の検診で肺や肝臓への転移が見つかる。すでに治療もままならないような状態で、彼は来し方の様々な出来事を振り返るというのが大筋だ。
同病者としてまず、ステージⅠの患者が五年を経ても尚再発し、手遅れになるという設定にちょっと暗い気持ちにさせられた。新聞記者として彼が取り組んできた「『戦争』の輪郭線」の記事と思われるものが長々と挿入され、記者としての事蹟やひととなりは凡そわかったが、それでもやはり共感はできなかった。特に最後半礼宮(秋篠宮)さんの話が出てくるあたりは全く唐突感をもたざるを得ない。朽木の興聖寺は訪れたことがあり、礼宮さんの写真が掲げられていた記憶もあるので、ここに書かれたようなエピソードもあったかもしれない。が、「記者としての自分の内心に、ひとつの転機をもたらすものだった。」と言われても納得できない。
同じ病気でも私なんぞは案外楽観的だが、「余命」などということを言われたらやはり感傷的に過去を振り返るであろうか。そんなことは今は考えたくないが。
黒川さんの小説はもう一冊借りてあるので読むつもりだ。
朝晩めっきり寒くなってきた。今日は曇天から雨で暖房がいる。
朝寒やまづスリッパのありどころ
石蕗が咲き出した。