「ふつうがえらい」 佐野 洋子著

 Tが本棚の整理を始めた。佐野さんの本を二冊持ってきて、処分しようと思うけれどいいかと聞いてきた。当方が佐野さん好きなのをおもんばかってのこと。「がんばりません」と「ふつうがえらい」の文庫本。どちらも読んだ気がするが、記憶にない。エッセイのようなものは、内容も重複していてどれを読んだのか、読んでないのか分からなくなる。読書ノートを八年ぶんほど繰ってみて、「ふつうがえらい」は読んでいたことが判明した。「がんばりません」はどうやら読んでないようなので、ちらっと目を通すことに。

 相変わらず感心する達者な文章で面白い。この筆致で手紙を書きまくって、谷川さんのハートを射止めたらしい話もでてくる。お元気なころで威勢の良さが全面にでていて、こちらも元気になる。もう新しい本はでてこないかと寂しい。

 さてこの本の行方だが、読み終えてブックオフ行きダンボール箱へ。またお会いしたくなったら図書館に行きます。

 

 

 

 

     鵙が来て日ごとに消えぬ地の火照り

 

 

 

 

ふつうがえらい (新潮文庫)

ふつうがえらい (新潮文庫)

 

 

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 九月になった途端、ネットで毛糸を注文する。一昨日あたりから朝晩は一挙に過ごしやすくなって、冷房に頼る時間もすくなくなった。いよいよ編み物の季節だと思ったら、突然欲しくなった。もっとも当方の買うものは、廃番になって在庫限りというもので、定価の半額以下。これでちゃんと編み上がれば編む楽しみも加えて結構にお得のはず。夢中になりすぎて指を痛めるのだけは気をつけなくてはと思う。

 昨夜は我が家もサッカーに盛り上がり、珍しく夜ふかしをした。月下美人の開花日で一挙に十花も咲いた。月齢は10・4だったが冴えた美しい月夜で、開花にふさわしい夜だった。

 

 

 

 

     闇に覚め虫の浄土といふばかり

 

 

 

 

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休暇果つ

天皇の逝く国で」 ノーマ・フィールド著

 ノーマさんの名を知ったのは新聞のインタビュー記事である。心に残る言葉があって、ノートに書き写したのだ。最近たまたま名前を拝見して、検索でこの本を知った。題名のとおり、1988年から1989年、昭和天皇の死の前後で話題になった三人の物語である。(彼女はエッセイと言っている)いずれの出来事も記憶の底にはあるが詳細は忘れてしまっていた。が、こうして読み返してみれば30年を経ても、なお深い問題を投げかけてくる出来事であった。三人とは沖縄で日の丸を燃やした知花昌一さん、自衛官の夫の靖国神社合祀を拒んだ中谷康子さん、天皇の戦争責任に言及した長崎市長本島等さん。いずれも国家の思惑に異議を唱えた人である。知花さんはともかく中谷さんも本島さんもごく普通の人で、強い主義主張からの行動ではなく、ただ自分の心に従っただけだったが、世の中に大きな波紋を広げた。

 さて、ノーマさんがこの本を書いた昭和の終焉時から今や平成も幕を閉じようという時になったが、相変わらず沖縄はこの国の負の部分を背負わされているし、「戦争責任」の問題での隣国とのギクシャクした関係はより酷くなった気がする。そして何よりも世間と違った立場を表明することの息苦しさは、全く変わらない。今日の新聞で「平成を振り返る」という企画があって平成全体を総括した言葉があった。アグネス・チャンさんは「成熟国家とはと模索を続けた時期ではないか」と語り、昭和時代より謙虚さがなくなったし差別意識が出てきたのではないかと危惧している。米国人のキャロル・グラックスさんは、日本人の意識の根本的な変化として「天皇中心ではなくなった」と言う。そして、二度の大震災や原発事故を組み込んでさえも「平成は明るい」か「どちらかといえば明るい」という世論調査の結果に驚いてもいる。只中の当事者である身では客観的な見方は難しいが、昨今のニュースからは30年も持ち越されている問題が、ますますがんじがらめにもつれていくようなそんな思いばかりがつのるのだが。

 

 

 

 

     おぼつかぬトランペットの休暇果つ

 

 

 

 

天皇の逝く国で[増補版] (始まりの本)

天皇の逝く国で[増補版] (始まりの本)

夏負け

「鴎外の坂」 森 まゆみ著

 大変な労作である。著者は鴎外亭から徒歩で十五分ほどの近くに生まれ、同姓でもある鴎外に非常に関心をもったと書いている。足跡を追うように「鴎外の暮らした東京の土地の一つ一つを自分でたどりなおして」土地土地にまつわる作品やともに暮らした家族との関係から、鴎外の生涯を見つめなおした。その結果、鴎外は「微笑の人」であると筆者は言う。母には孝行息子であり、妹弟には思いやりのある兄であり、子供には甘いほどの父親であり、妻には優しい夫であった鴎外。しかし、例外はある。最初の妻となった人である。「舞姫」のモデルと言われるエリスも栄達のためには切り捨てられた。この本では妻にはなれなかった愛人の存在にも触れている。「微笑の人」と言っても堅牢な結束の森家の人々に対してであり、複雑ではある。また、鴎外は「克己心」の人であったとも言う。軍医として二度の戦争にも従軍した。寸暇を惜しんで書見し著述し仲間との雑誌の出版もし、精力的に意志的に生きた人でもあった。

 膨大な資料の読み込みと地図を片手の詳細な過去の探索が、鴎外の人となりを彷彿と蘇らしてくれた。が、力作だけに読むのに疲れた。 鴎外に恋していると言っていたのは伊藤比呂美さんだが、鴎外と漱石、二人の大文豪をならベれば、当方は漱石のほうが親しみがもてるかなと、この力作に対して程度の低い感想である。

 

 

 

 

     夏負けの貌ありありと美容室

 

 

 

 

鴎外の坂

鴎外の坂

 

 

     

水密桃

「アーサーの言の葉食堂」 アーサー・ビナード

 面白かったからとTから回ってきた一冊。よく知らない人だと思ったが、たまたま書評で読みたいと思っていた一冊、「知らなかった、ぼくらの戦争」の著者だと知ってちょっと嬉しい気分がする。ビナードさんはアメリカ出身。詩人で絵本作家でエコロジストで平和主義者で原発反対・TPP反対となかなか好もしい人物だ。この本は「言の葉食堂」というだけあり詩人らしく言葉に注目したエッセイ集。ほとんどはおかしな和製英語や誤訳やスペルの間違いによるとんでもない例の数々。しかしながら、十年も英語の学習をしたはずなのにいまや中学生程度の力もない身では、するりと納得して笑えないのは残念だが、まあ、日本語に関するところでは当然ながらくすりときて、「漢字か平仮名かそれとも」では、当方もこんな例を見つけたのでご紹介。(写真参照)

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よく通る国道の地下道入り口の地名(?)である。何だかドキッとするけれど反対側には漢字表記で「木造り」とあり、なるほどというところだ。

 

 

 

 

     幼子は抱っこ大好き水密桃

 

 

 

 

アーサーの言の葉食堂

アーサーの言の葉食堂

 

 

おしろい花

 おしろい花は不思議な花だ。日差しが弱くならないと咲かないし、強まるとすぐに閉じてしまう。一昨日の場合、日陰では四時半ごろ、日向では五時過ぎと微妙に違う。朝も八時にはもう萎んでいた。このぶんだと雨の日はどうかしらんと思うのだが。

 子どものころ、よく遊んだKちゃん。ひとつだけ年上だったわりには人形の洋服づくりが、とてもうまかった。本物のパターンを真似て裁断し、綺麗に手縫いをして、ちゃんと着せ替えの出来る出来栄え。四角い布切れに首と袖だけ穴を開けたような作りをしていた身には驚き。「Kちゃんは器用だな」と感心していた母は、不器用な子に情けない思いをしていたかもしれぬ。大人になって道ならぬ恋の果てに子を孕み、その子も亡くしたと伝え聞いたが、その後は知らない。

 Kちゃんちの家の前におしろい花がたくさん咲いていて、黒い実から白粉を集めたことを覚えている。幼い頃の夏休みの思い出。

 

今日は二十四節気のひとつ、「処暑」。暑さが少し緩んでくるの謂。

 

 

 

 

   おしろいが咲いて子供が育つ路地   菖蒲 あや

 

 

 

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線香花火

 「盾」という言葉が気になっている。というのは、一昨日の新聞、「日米2プラス2」を終えた小野寺防衛大臣の発言。

 自衛隊の役割拡大に記者団から質問が飛ぶと、小野寺氏は「専守防衛の中で、(日本に託された)『盾』の役割を万全にする中での新たな方向だ」と述べるにとどめた。

  とある。小野寺氏は日本の役割をはっきりと「盾」と言っているのだが「盾」とは一体何か。一般的には「敵の攻撃から身を守るための防御用具」というところだろう。が、「一番大切なものを守るために前に塞がるもの」という意味ともとれるであろう。つまり日本は米国を守るための「盾」に考えられているわけだ。これでは全く本末転倒ではないか。この「盾」という役割発言にマスコミも強く反応していなかったので、私は奇異に感じたがこちらの感覚がおかしいのか。何だか腹に落ちかねてここに書いてしまった。

 

 夏休みも夏らしい日々が少ないままいよいよ最終章。昨夜は身近な花火の音を聞きつつ入浴。

 

 

 

 

     目を集め線香花火の玉太る

 

 

 

 

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