休暇果つ

天皇の逝く国で」 ノーマ・フィールド著

 ノーマさんの名を知ったのは新聞のインタビュー記事である。心に残る言葉があって、ノートに書き写したのだ。最近たまたま名前を拝見して、検索でこの本を知った。題名のとおり、1988年から1989年、昭和天皇の死の前後で話題になった三人の物語である。(彼女はエッセイと言っている)いずれの出来事も記憶の底にはあるが詳細は忘れてしまっていた。が、こうして読み返してみれば30年を経ても、なお深い問題を投げかけてくる出来事であった。三人とは沖縄で日の丸を燃やした知花昌一さん、自衛官の夫の靖国神社合祀を拒んだ中谷康子さん、天皇の戦争責任に言及した長崎市長本島等さん。いずれも国家の思惑に異議を唱えた人である。知花さんはともかく中谷さんも本島さんもごく普通の人で、強い主義主張からの行動ではなく、ただ自分の心に従っただけだったが、世の中に大きな波紋を広げた。

 さて、ノーマさんがこの本を書いた昭和の終焉時から今や平成も幕を閉じようという時になったが、相変わらず沖縄はこの国の負の部分を背負わされているし、「戦争責任」の問題での隣国とのギクシャクした関係はより酷くなった気がする。そして何よりも世間と違った立場を表明することの息苦しさは、全く変わらない。今日の新聞で「平成を振り返る」という企画があって平成全体を総括した言葉があった。アグネス・チャンさんは「成熟国家とはと模索を続けた時期ではないか」と語り、昭和時代より謙虚さがなくなったし差別意識が出てきたのではないかと危惧している。米国人のキャロル・グラックスさんは、日本人の意識の根本的な変化として「天皇中心ではなくなった」と言う。そして、二度の大震災や原発事故を組み込んでさえも「平成は明るい」か「どちらかといえば明るい」という世論調査の結果に驚いてもいる。只中の当事者である身では客観的な見方は難しいが、昨今のニュースからは30年も持ち越されている問題が、ますますがんじがらめにもつれていくようなそんな思いばかりがつのるのだが。

 

 

 

 

     おぼつかぬトランペットの休暇果つ

 

 

 

 

天皇の逝く国で[増補版] (始まりの本)

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