松の内

『桃太郎のユーウツ』 玄侑 宗久著

 Tに借りて久しぶりの小説読みである。表題作を含めて6編の作品集。玄侑さんに似合わずなかなか毒のある作品集だ。少しまえに読みかけたエッセイ集『禅のアンサンブル』で、「我が身の経営にとって最も重要なのは自分の機嫌の管理だということだ」と書き、鼻歌を奨励した同じ人とは思えない。

 6編は比較的穏健な話から始まり(それでも暗い)、山寺での一家惨殺事件を背景にした話、コロナの蔓延から変貌した未来の社会の話、寓話の形をとったテロの話と回を増すごとに重苦しくなる。

 確かに東日本大地震からこの方、コロナによるパンデミック、気候変動、世界各地での戦争そしてまたまた能登地方での大地震。ほんとうにユーウツ極まりない時代である。筆者はあとがきで「大きなユーウツと微かな希望を感じて」ほしいとあるが、微かな希望はあるのだろうか。

 強いて言えば3作目「火男(ひょっとこ)おどり」の猪狩の爺の強引さに、私は一番心惹かれた。百万円のお賽銭を上げ、震災後のひとり暮らしのうっぷんを晴らすように踊り狂う爺さん、この話なら受け入れられる。興奮の後にさらなる孤独が待っているにしろ。

 「激変する『人新世』に暮らす以上、我々がユーウツであるのは避けられないのではないか」と筆者の言葉。そのとおりかもしれぬ。

 

 

        病院ははや混み合へり松の内

 

 

 新年早々四年目の定期検診。CT検査も回を重ねると思わぬこともあるものらしい。いつもはなんともなかった造影剤だが、一瞬気分が悪くなり周りの人に心配をかけた。幸いアレルギーが起きたわけではなく、落ち着いたら帰宅。何ということはなかった。