どんぐり

『ミシンと金魚』 永井 みみ著

 カケイばあさんは、認知症の気がある。聞かれなくてものべつまくなし喋り続ける。この本はカケイばあさんの独白だ。不幸な生い立ちから、ヤクザな兄貴のこと、突然出ていった亭主のことや先妻の子どもと自分の子どもを抱えてミシンを踏んでたつきを得た日々、過ぎ去ったの記憶はどれもどれも鮮明だ。一番思い出すのは疫痢で死なせた幼な子、道子のこと。ミシンに夢中で、道子を死なせてしまったこと。不義の子だったけれど「道子が生きていた時はうんと、うんと、しあわせだった。」

 わずかなお金だが、苦労しているやさしいヘルパーさんたちで分けてもらおう。やっとこさ遺言書を書いたカケイさん、ハンコを取りそこねて玄関で転がってしまった。花がいっぱい咲き乱れて、ああ「今日は死ぬ日だ。」

 

 

        どんぐりや古墳の丘は風の道

 

 

 

石蕗の花