麦の秋

『人新世の「資本論」』 斎藤 幸平著

 今、話題の本である。(2021 新書大賞第一位)家族で回し読みをして最後に回ってきた。

 表紙の惹句に「気候変動、コロナ禍、文明崩壊の危機。唯一の解決策は潤沢な脱成長経済だ。」とある。

 気候変動は今や待ったなしの課題であることは、誰もが認めざるをえない。それは際限ない利潤追求を続ける資本主義とは全く相容れないものだ。SDGsや「グリーン・ニューディール」などという考えも、結局一時的な「アヘン」のようなもので、経済を成長させながら二酸化炭素の排出量を削減させることは全く無理なことだ。むしろさらなる技術革新はさらに致命的な環境問題を誘因することも考えられる。従って飽くなき利潤追求のシステムは止めるしかない。

 では、どうするか。筆者はマルクスの『資本論』を読み込んで「コモン」という道を提唱する。「コモン」とは地球そのものを有限なものとみなして、共同管理をする考えである。使い捨てや無駄な生産をやめ、すべての生物が生きるのに必要なもの(筆者はこれを使用価値のあるものという)だけを生産する。それは決して貧しくなることではない。逆に余暇は増え労働の価値は高まり、それこそ「潤沢な」暮らしとなるにちがいない。

 そこに至る道筋として、今まさに実践されつつあるいくつかの例も紹介される。例えばスペインのバルセロナ地方自治体としての取り組みやら、パリの「黄色いベスト運動」が生んだ市民会議などなど。そういう先進的な提言や取り組みは知らなかったが、日本の中でも小さな「コモン」的考え方を聞いたことはある。あの震災後、奥美濃のある地域では流量の豊富な谷川の水で小規模な発電を行い、地域で共有しているというニュースがあった。

 筆者は「持続可能で公正な社会」へどんな小さな声でもあげていくべきだと訴えている。3・5%がNOを突きつければ世界は変わり始めるというが、信じがたい気持ちとそうあってほしいと思う気持ちが拮抗する。本当に今や気候変動は待ったなしの現実だ。

今年も「異常な気象」からのがれられないのか、例年と比べると最も早い梅雨入りだと、昼のニュースが伝えていた。

人新世の「資本論」 (集英社新書)

人新世の「資本論」 (集英社新書)

 

 

 

 

        麦の秋風の足跡みつけたり

 

 

 

 

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