七月

『「宿命」を生きる若者たち』 土井 隆義著

 香港では若者が中心になり激しい政治批判が起こった。比べて日本にはなんの問題もないように静かである。日本は豊かなのか、恵まれているのか、若者に何の不満もないのか。そんなことはないはずだ。一人当たり購買力平価GDPひとつをとっても香港は11位、日本は31位(2018年版)若者の相対的貧困率は上昇、格差は拡大しているのである。ところがである。生活満足度も上昇しているのだという。この経済動向と幸福感が相関しないことについて筆者は社会学者の古市氏の見解を紹介しているが、それは一つには人間関係の心地よさで生活が満たされるということ、もう一つには高い希望を抱かなくなったゆえの満足感だという。筆者はこの見解を始まりに様々な資料を駆使して、今の若者の多くが生得的属性に縛られた宿命観(生まれつきだからしかたがない)に縛られて、内向きに小さくまとまっている現実を明らかにしている。

 それはさておき、トシヨリが今更若者についての話を読んでみようなどと思ったのはこの国の未来に明るさが見えないからである。遠からず土に還る身には目をつぶっておればすんでいくことだが、これからの人たちはどうするのだろうと老婆心が疼いたからである。

 土井氏は言う。生得的属性と思われるものでも多くは社会化による産物でしかない。だからこそ社会制度の是正が必要ならばそれを可能にすべく声をあげるべきであると。そして、ネットを駆使してあっというまに大勢のボランティアを集めた総社市の高校生の例を引きながら「現在の若者たちは、人間関係の内閉化や生活圏の分断化を、その気になれば軽々と乗り越える力をもっている」とも。

 

 

 

 

    七月や雨脚を見て門司にあり   藤田 湘子

 

 

 

 

 

 湘子の句でも好きな一句。大岡信さんは「読者の側でさまざまに空想できるふくらみがある」と評している。まさに映画の一場面を見る思いがする。