時雨

ハーメルンの笛吹き男』 阿部 謹也著

 この本の新装版がベストセラーであるらしい。ハーメルンの伝説の真相に迫ったものらしく、面白そうだ。買うか借りるか検討をしていたらTが家にあると言う。ずいぶんと古い本で読みにくそうだがせっかくだからとそれを読んだ。

 この本はまず、あの有名な「ハーメルンの笛吹き男の伝説」が真実かどうかの話から始まる。そして、この事件を伝える三つの古い中世資料を参照して、おそらく現実に起こった歴史的事実に違いないと確信する。

 それは1284年6月26日ハーメルンの町で130人の子どもたちが行方不明になった事件である。(ここではまだ笛吹き男や鼠取り男の話は出てこない)

 それではなぜ行方不明になったのか。もちろんそれは永遠の謎にはちがいないのだが、近年の研究でいくつかの仮説が唱えられている。

 ひとつは東ドイツへの植民説。ハンガリーやロシア国境周辺の新天地を求めて大勢の若者が故郷をあとにしたという話だが、当時植民は他の土地でもあったのでハーメルンだけが問題視されるというのもおかしい、その上移住した若者たちと故郷の間に何の連絡もなかったのはおかしいなど欠点も多い。

 伝説にまとわる暗い悲劇的な雰囲気から植民したが遭難したという説もあるし、子ども十字軍の説もある。

 さて、筆者はこの伝説の背景に計画的に遂行された出来事があるとは思えないと偶発的遭難説を支持する。6月26日がヨハネパウロの日であることからヨハネ祭りの宗教的興奮と湿地帯での遭難という説である。そのため当時の祭りの興奮と陶酔・馬鹿騒ぎに満ちた祭りの様子や祭りに狂った当時の貧しい身分制社会の状況などを詳しく述べている。

 ところで子どもたちを連れ出したのは鼠取り男であったとか、笛吹き男であったとかというのは16世紀以降に付け加わった話らしい。放浪民であった鼠取りや楽師達への蔑視が背景にあり悪行の象徴として宗教的教化の手段として利用されたようだ。

 一方鼠取り男が正当な報酬を拒否されそのために復讐したという件は権威の裏切りへの批判でもあったらしい。いずれも16世紀の宗教改革で伝説が大きく変容したようだ。

 

なかなか面白い本であったし、ドイツという国が中世を通じて国家というものがなかったというようなことは初めて知ったことであった。

 

 

 当地は昨日今日と寒さのどん底。暖房の部屋から出る気がしない。終日編み物と読書である。

 

 

 

 

          時雨るるや阿弥陀被りの陶狸

 

 

 

 

ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)

ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)

古い本はコードがないので今の本を貼り付けます。