冬ぬくし

「心をたがやす」 浜田 晋著

 正直に言ってこの方は存じあげなかった。たまたま図書館で手にした本である。初稿は二十年も前のものらしい。もうリタイアされたが町居の精神科医であったらしい。若月賞を受賞されている。真面目でヒューマンな方である。バブル期の地上げで下町の人間関係が崩れていくのを怒っておられる。居場所をなくした老人たちが「病い」へ追われていくのを嘆いておられる。ゴルフ場に切り開かれてまだらになった山野、休耕田と称して荒れた水田、老人ばかりが残った田舎、浜田先生の怒りと嘆きは止まらない。正直な方である。終戦直後の医学生の頃、無知で人を死なしてしまったと言われる。精神科医なのに酷い不眠で睡眠薬を常用しているとも、いろんな不都合が重なった時「前痴呆状態」になったとも認められる。

 だが何よりも患者に寄り添った良医であることは、幾つか取上げられている症例で納得できる。

印象に残った話や言葉はいくつかあったが「食べる」として書かれた一章のお終い、ある老婆が市場で笹かれいを品定めしてやっと一尾に決めた瞬間の顔のこと。

老い」もまんざらではないぞ、何も、年とってゲートボールを初めたり、カラオケを初めたりすることはない。

 喰うこと、それは「生の輝き」ともなり、文化ともなるのである。

  最近はたいしたことは何もしてないが、安くて美味しいものを考えて献立表だけは作る。姉も施設に入る前までは習慣だった。

 

 

 

 

     いたわりの小さき言葉冬ぬくし

 

 

 

 

心をたがやす (岩波現代文庫)

心をたがやす (岩波現代文庫)