秋天

バベットの晩餐会』  イサク・ディーネセン著

 佐伯さんの著書で知った。図書館で借りてきたのだが、正直、面白味がわからなかった。ところが、何と先日BSでこの物語の映画が放映されたのだ。もちろん観たことは言うまでもない。1987年のデンマーク映画

 ユトランドの荒涼とした辺地に暮らす信仰深く美しい姉妹。父親は牧師であり、カトリックの厳格な一派の主宰者である。人々は彼を中心に集っては、神を讃え深い信仰の絆を結んでいた。中には美しい姉妹に惹かれてくる若者もいるが、姉妹は父のもとを離れはしなかった。父が亡くなって、姉妹は老いても、二人の宗教的慈善的な暮らしぶりは変わりなかった。

 ある嵐の夜、ずぶぬれで一人の女性が姉妹を訪ねてきた。フランス革命で家族を失い、やっとのおもいで逃れてきたのだと、かって妹娘に惹かれた古い友人の便りを手にしていた。彼女は姉妹の家政婦になって貧しいが堅実な家計を助ける。

 また、長い月日が過ぎて、家政婦バベットのもとにフランスから便りが来る。祖国との唯一の繋がりとして買い続けていた宝くじで、大金が当たったという知らせ。折しも牧師の父親の生誕百年。老いた信者たちが互いに寛容さを失うの見て、姉妹は父の生誕祭を行おうと決心する。それを知ったバベットは自分のお金でお祝いの料理を作らせてほしいと願い出る。それも本格的フランス料理のフルコースをと。

 バベットの作った料理は貧しい村人にとっては初めて口にするもの。無言で疑心暗鬼で食べ始めた彼等は次第に饒舌になって美味を愉しむ。そして、外からの客人(彼はかって姉娘を恋し今も敬慕する将軍)の、信仰の熱いものはむろん罪を犯したものでも天は受け入れてくださるという語りに、人々はまた信仰と寛容な心を取り戻す。

 バベットはその晩餐に大金すべてを使い果たした。だが、かって祖国では高名な女料理人だったという彼女は、料理は自分の芸術だからと満足したのだった。

 

映画はモノクロのような抑えた色調で、北国の信仰熱い人々の精神性を、よく表していたと思う。将軍の語る言葉が、親鸞のことばに似通って聞こえたのは、信仰の本質はにているということだろうか。 

 

 

 

 

       秋天や善人なおもて悪人をや

 

 

 

 

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カクノトラノオ