初夏(はつなつ)

 「日本近代随筆選 1出会いの時」
 雨のつれづれに読んだ本。鴎外も漱石露伴も入っていたが、心に残ったのは柳田国男中勘助。柳田の「浜の月夜/清光館哀史」東北の寒村の盆踊り歌と古びた宿の没落の話。月明かりだけの浜辺で女達がぼそぼそと踊りながら歌う歌に惹かれた筆者。数年をおいて再訪するがかっての宿は廃墟と化していた。女たちの歌は綿々と続いており、それが男に呼びかけた恋歌である知った感慨。浅はかな快楽なぞではなく、苦しく厳しい暮らしから湧きでた歌の調べは悲しいものだと、筆者は語る。もう一編は中勘助「結婚」結婚式の朝、同居の兄が自死するという嘘のような本当の話。あの「銀の匙」の筆者が淡々と語るありえないような人生。全部で四十二編収録。三巻のうちの第一巻。
 プールに行く。晴れて緑が眩しい。


     はつなつや木陰に母の散髪屋