花蜜柑

 温州蜜柑と甘夏蜜柑の花がいっせいに咲き始めた。甘く優しい香りで幸福感に満たされる。雨催いの湿った大気の日はことに香りが濃い。

 五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする 読み人知らず

 古今和歌集に集録され、伊勢物語六十段にも引用されている古歌である。橘はミカン科の常緑低木。御所に右近の橘として植えられている。古語の「たちばな」は食用蜜柑類の総称でもあるそうだ。いずれにしても橘の花も蜜柑の花も素人目には同じ。香りもまた同じであろう。衣に薫き込めるにはまたとない香りにちがいない。でも、どんな方法で香りを移すのかしらん。

     
     胎の子に話しかけをり花蜜柑


蜜柑の花