『親子の時間』 庄野潤三小説撰集 岡崎 武志編
庄野ファンである岡武さんが撰集された庄野ワールドである。最初の一編を除いて後は文庫本未収録のものから選んだとある。久しぶりに庄野ファミリーの暖かさに触れたく、借りて来る。一時かなり読みふけっただけに懐かしい家族である。全編なんの変哲もない家族の話。「いつも互いを思い合いながら、一日いちにちを大切に生きている」家族の話。岡武さんはこれを「家族のリズム」だという。
全くどこにでもあるような家族の話なのだが、ちょっと違うなと思うのは子供たちがあまりにも素直だということ。「山の上に憩いあり」は隣村に住む河上徹太郎家との十年以上の交流を綴ったものだが、難しい年頃の子供たちが実に素直で明るく協力的なのである。岡武さんも「庄野家の子どもたちが、小説と同じく、庄野潤三が作り上げた作品のように思えてくる。」とも書いている。いずれにしても「家族のよさ」をしみじみと感じさせる作品だった。
あとがきを読んで庄野ファミリーの末の息子さんが早世されていたことを知った。以前読んだブログで夫人もすでに他界されたようだ。あの「生田の森の一家」も「家族のリズム」が狂った日もあったのだなと思う。しかしいまは多分次世代の「家族のリズム」が生まれているにちがいない。そうやって命は引き継がれていくのだと思うと、なんだかちょっと胸が熱くなった。
蜜柑の花が真っ盛りで庭中にえもいわれぬ甘い香りが拡がっている。風がなくともはらはらと白い花びらが零れる。まさに「聖五月」である。
今日は二十四節気の「立夏」。「立夏」にしては肌寒い朝である。
用水の水たばしりて夏来たる
ちょっとピンボケですが「蜜柑の花」です。甘夏も温州みかんも同じ花です。
- 作者: 庄野潤三,岡崎武志
- 出版社/メーカー: 夏葉社
- 発売日: 2014/07/25
- メディア: 単行本
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