明易し

『森林通信』  伊藤 比呂美著

 久しぶりの比呂美さんの本。コロナ禍の2022年の夏、比呂美さんはドイツに3ヶ月ほど滞在されたのだが、これはその報告書ともいうものだ。比呂美節ともいうべきか、つらつらとした文章に加え、今回は横書きである。横文字の引用があるからだろうが、思ったほど読みにくくはない。

 何のためにドイツに行かれたのか。「鴎外」の足跡をたずねるということのようにも思えるのだが、鴎外についての考察は当方の理解には荷が重すぎる。それよりも原始人派で自然派の比呂美さんのドイツ発草木事情ともいうのが、面白かった。

 街路樹の根っこで歩道の石畳が不揃いに盛り上がっている。「歩くのに気をつけて」と言われて、比呂美さんは地元熊本のことを思い出す。同じような問題で熊本市は520本の街路樹を切り倒すことを決めた。しかし、ドイツでは木の根っこで石畳が盛り上がって隙間ができれば、そこから水が染み込んで根のためにはとてもいいというのだ。落ち葉が散乱し、雑草だらけになっても市民は受け入れている。ベルリンの中心街は「横町も大通りも、地下鉄の入り口もすべて森。」大学の先にも森があって、森の中には湖があり、そこでは市民が泳ぎもする。水着もつけず、真っ裸で泳ぐ男に出会ったという驚き。

 「ドイツも始めから森を持っていたわけではなかった。」酸性雨による森の死も問題になった。しかしさまざまな試練の果に、森は持ちこたえて再生した。

 自然派の比呂美さんは同じ森好きの友人と森を歩く。かつて東西に隔てた壁の作りだした森へも行く。壁と壁との間に野原が広がっていた。植物を枯らして西側に逃れようとする人を見張るためだったという。森には野生の林檎の木がある。実をもいで食べられる林檎の木だ。

 ドイツも近年温暖化の影響が一段と深刻らしく森のブナやシラカバは受難だ。外来種のハリエンジュが増えてる。今にハリエンジュの森になるのではないかという。

 国は違えど、どこも地球温暖化の影響は目に見えて大きいのだと思う。ウクライナへの侵攻で世界は不穏の上、犬と猫2匹ずつを人に託し、PCR検査も受け、さらにコロナにも感染し、それでも行動的なのには驚くしかない。この翌年にもドイツを再訪されて、詩の朗読とダンス、箏のコラボレーションをしたとあった。

 かかりつけ医が閉院されたので新しくかかりつけ医をお願いする医院に出かけた。今までよりずっと近くなって、ほんとうにご近所さんだ。最近開業されたばかりでまだお若い。在宅医療もされるというので、ここでずっとお世話になれそうだ。

 

 

       うつうつと夢の名残や明易し

 

 

ウコンの花