先に読んだ本で、川本さんは中学生のころ、この本を読んで身につまされたといったことを書いておられた。
主人公の一人の少年が、クリスマスだというのに帰省できない。親が、貧しくて帰省の費用が工面できないので寄宿舎でクリスマスを過ごしてくれと、頼んでくる。彼は落胆するが、泣かないで我慢しようと決心する。「泣いちゃダメ 絶対」と呪文のように繰り返して耐えていたのだが、不審に思った舎監先生の言葉で堰が切れるというくだりである。
その彼、マルティンは先生の優しい心遣いで帰省できるのだが、思いがけず家族でクリスマスを祝えることになったマルティン一家のささやかな幸せ場面も感動的だ。
この他にも素敵なエピソードはいっぱいある。ギムナジウムの寄宿舎に暮らす少年たちの友情や、彼等を庇護する大人たちの温かい眼差し。「正義さん」と呼ばれる舎監のベーク先生やら「禁煙さん」と呼ばれる先生の親友だったローベルトさん。そうそうベーク先生とローベルさんの思いがけぬ邂逅と友情とか。
善意に満ちていて、子どもたちがいきいきと活動するこのお話が、実はナチが政権をとった年に出版されたとは、信じられない。否、そういう時代だったからこそケストナーはこの話を世に出したのかも知れないな。
さてもさても、大人(バアサン)が読んでも、感動的でいい本でした。
おとなりのおばさん、(と言っても当方より十歳年上だけだが)亡くなっていたことがわかった。先月末の夜、救急車が来たのは気づいていたが、まさか亡くなったとは思っていなかった。こういう時代だからひっそりと送られたらしい。何かと頼み頼まれ、顔を見れば立ち話をした間柄であった。お悔やみを言いながら言葉が潤んできた。
ひとしれず葬儀済むてふ春寒し