春浅し

『帰れない山』 パオロ・コニェッティ著 関口英子訳

 このイタリア文学を読もうとしたきっかけを忘れた。どこかで推薦文を読んだのだろうが。借り出す本のリストにメモってあったので、検索して借りてきた。2017年のイタリア文学界の最高峰ーストレーガ賞受賞作品とあるので、最近の本である。ヨーロッパでは大ベストセラーとなり、舞台化され映画化も予定されているという。

 始まりは、北イタリアのアルプス山麓で、両親と共に夏の休暇を過ごしていた少年ピエトロと、山村の牛飼いの少年ブルーノとの出会いからだ。同じ年格好の二人はたちまち気心が通じ、豊かな山麓の自然の中で友情を育んだ。

 長じて、ピエトロは大学を中退し、定職にもつかず、映画制作に携わることを夢想。ブルーノは村で石積み職人として暮らしながら、ピエトロの父親と山に登ったりしていた。

 そのピエトロの父が亡くなり、遺された山麓の土地に小屋を造ることで、二人の交情は復活した。

 イタリアも日本の過疎地域同様、観光開発から見放された僻地は廃屋が目立ち、豊かさにはほど遠い。そんな山村を頑なに出ず、不器用に最後まで暮らしつづけるブルーノ。そして、そんな彼の「純真で廉潔なところに敬意と憧れを抱いてきた」ピエトロ。

 美しく厳しい山の自然と二人の友情。筆者は書きたかったのは「二人の男と山の物語だ」と端的に述べている。透明感のある自然描写とともに、せつなく哀しい話である。

「人生にはときに還れない山がある。・・・ほかの山々の中央にそびえ立つ、己の物語の初めに出会った山には二度と帰ることができない。最初に出会ったいちばん高い山で友を亡くした僕たちは、それをとり囲む八つの山をさまよいつづけるよりほかないのだから」

 この話の最後の一節である。

 

 

 

 

        二歩前進一歩後退春浅し

 

 

 

 

 

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ひと足先にほころんだの菜の花

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梅ふふむ