薔薇

 二三日まえに録画した「岸辺の旅」を観た。2015年の作品。監督は黒沢清カンヌ映画祭で監督賞を得た作品らしい。夫と妻の蘇りの物語なのだが、正直言ってよくわからなかった。

 夫は三年前に妻を残して失踪、妻は何の手がかりもないまま無為の日々を送っている。その妻の元に突然夫が帰ってくるが、彼は自分のことをすでに死んだ身だと告げる。最初はこの言葉が一種のレトリックかと思ったのだが、本当に死んだ身らしく要するに幽霊ということだ。死後自分が旅したところをいっしょに巡ってほしいという夫の願いで二人は出かけるのだが、その旅によれば死後も彼は決して不幸ではなかったようだ。むしろ先々で重宝がられ生きている時よりずっと自分に納得でき、それで初めて妻にも素直に向き合えたというかそんな感じで帰ってきたようだ。そうやって妻にありのままの姿を見せ、再びあの世に旅立っていき、おそらく妻もひとりで歩き出す。

 

 見終わった時何だか自分もあの世からきた人間じゃないかと錯覚したほど、理屈では割り切れないストーリーだが、こうあってほしいと思う人には、案外共感ができたのではないだろうか。ことに震災などで予期せぬ不意の死に直面した人々にとってはもう一度生死の別れのやり直しをしたいという気持ちは強いに違いない。生死の別れに納得するなどということはありえないだろうが、それでももう一度きちんと別れのことばを交わしたいという気持ちは強いだろうと思う。その意味でこの話は癒やしになるかもしれない。が、正直言っていまの気分ではもっと明るい物語が見たかった。

 

 雨になるというのでH殿は四時に起きて畑仕事。どうやら降りだす前にいくつか苗の植えつけが出来たらしい。こちらも一緒に早起きしたので午前中が長い。

 

 

 

 

 

     癌といふ音も字面も薔薇の棘

 

 

 

 

  

岸辺の旅 [DVD]

岸辺の旅 [DVD]