『句集 源義の日』 角川 春樹著
父恋母恋姉恋友恋の句集である。おそらく半分以上が身近な亡き人を忍ぶ句なっている。表題からして父角川源義氏の忌日を意識してのことであり当然と言えばそうである。
角川春樹氏と言えば山本健吉氏が『現代俳句』で言葉を極めて褒めそやしておられたのを思い出すし、確かに魅力的な作家だとも思っていた。そんなわけでこの句集も借りてきたのだが少しがっかりした。
深秋といえば書斎に父の椅子
これは春樹氏の若い日の父恋の句だが
かりがねや月の窓辺に父の椅子
父の日や使わぬ部屋に夕日差す
おそらく同じ部屋や同じ椅子を詠んでおられるのだと思うが父不在の空疎感は前者に及ばない。それよりも気になったのは名句の類想ではないかと思われる句が見られたこと。
いきいきと飢えてゐるなり枯蟷螂 (いきいきと死んでゐるなり水中花)
湯豆腐やいのちふたつのあたたかし(湯豆腐やいのちの果てのうすあかり)
俳句は類想がでやすいとはいえどちらも人口に膾炙した名句だけになんとなく二番煎じの気がする。
春樹氏の句には自然詠より境涯句と思われるものが多いが
鰤起しわが晩節も修羅がゐる
海鼠腸や流離のこころ今もあり
てつちりや父につながる無頼の血
雁渡るわが晩節の荒地あり
火を焚くや孤立無援に矜持あり
結構お年を召されたと思うが平穏で安らかな老後は望んでおられぬようである。ところで、
ゆく雁のつぎつぎ天をひろげゆく
私はこの句が一番いいと思う。
昨日の夜半お隣のご主人が亡くなられた。家族葬で送られるというので昨夜お別れにだけ行ってきた。
枕辺に享年を聞く寒さかな
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