木の実落つ

 「日本人は人を殺しに行くのか」 伊勢崎 賢治著
 少し前の出版(2014年発行)である。伊勢崎さんは自ら「紛争屋」と称するように、国際NGOの職員として世界各地の紛争現場で紛争処理や武装解除に携わってきた方である。したがってその経験に裏打ちされた考えは重みがあるし、信頼もできると思う。
 この本ではまず「集団的自衛権」とは何かという解説から始まる。それから、安倍政権がなぜ「集団的自衛権」にこだわるのか、「集団的自衛権」でなければ問題は解決しないのかを説く。前者は「日本人は金だけ出して済ましている」と思われているのではないかという思いこみ、後者は全く「集団的自衛権」の必要性はないとする。むしろ火器での紛争介入が破綻してる現状では非武装の日本のやりかたこそ期待されているし重要だと言うのだ。PKOに参加して自衛隊が海外に出かけることについても彼は警鐘を鳴らす。軍隊でないから「軍法」を持たない自衛隊が、もし自己防衛以外で誤って人を殺したらどうなるのか。今日の新聞でも南スーダンPKOに参加している自衛隊員が捕虜になった時の対応について、政府答弁で「ジュネーブ条約上の捕虜の扱いは受けられない」と答えていた。私たちは自衛隊がこんなお粗末な状態で紛争地に送られているとは知らなかったし、イラクからの帰還者にかなりの自殺者が出ていることすら知らなかった。いまや南スーダンは世界で最も危険な地域らしい。
伊勢崎さんは領土問題にも言及している。この頃、若いお母さんなどにも、「頻繁にミサイルを打ち上げたり、領海侵犯をしたりする隣国が攻めてくるのではないか」と不安を持つ人がいる。こういう平和を願っている庶民の気持ちが一歩間違えば戦争への引き金になる。領土問題は外交で解決すべきであるし、隣国も戦争は望まないと断言する。
 少し硬派な内容だったがわかりやすい本でもあった。



     縄文の森のしずけさ木の実落つ