春闌く

 「小倉昌男 祈りと経営」 森健著
 書評欄での高評価をみて、読んだ。話は「ヤマト宅急便」の元経営者の光と陰の物語である。端緒は伝説的経営者と言われた小倉が、退任後莫大な私財を投じてなぜ福祉の世界へはいったのかという疑問から始る。謎解きに似て、読ませる展開だ。小倉は敬虔なクリスチャンであり、ヒューマンな資質の持ち主であった。さらに家族の病に悩んだゆえ、弱き者への同情と共感を持つ人でもあった。そして、それらが彼を福祉に取り組ませたと筆者は解説する。華々しい表からは想像出来ない辛い個人的な暮らし、そのカリスマ性を熟知する者にとっては興味あるドキュメントかも知れない。しかし、知らない者にとっては小倉の立ち上げた「ヤマト福祉財団」にこそ関心を持った。小倉は障がい者の経済的自立力の向上を目標に「スワンベーカリー」というパン屋を設立する。自ら経営のノウハウも伝授。今では全国に29店舗まで増えたという。私財を増やすことだけに汲々する経営者が多いであろうに、彼の蒔いた種は実に立派な花を咲かせているのである。


     町工場閉めて音なく春闌ける