木守柿

『掃除婦のための手引き書』  ルシア・ベルリン著 岸本佐知子

 Tが借りてきたのを返却前に回してもらう。近頃話題の本らしいが、書かれたのは少し前ですでに筆者は故人だ。短篇集だがすべてが彼女自身の投影らしい。実に起伏にとんだ人生を送った人のようで短編集も破天荒なところが面白い。彼女の人生がどのくらい多彩であったかは短編集の題材を拾っただけでも計り知れるというものだ。

 三度の結婚と四人の息子持ち。シングルマザーとして掃除婦やら電話交換手、救急救命室の看護婦そして教師等々の仕事、住まいも転々として二百回の引っ越しをしたと書く。酷いアル中で矯正病院に入った体験もあれば、少女のころは羽振りの良かった父と一緒に裕福な上流階級ぐらしをしたこともある。従姉妹がすごぶる美人だと書いていたが、表紙や口絵の彼女のポートレートも魅力的だ。とにかくめまぐるしい一生だったようだ。

 この短編集の面白さはそういう多彩な話題と自分を突き放したようなアイロニーやユーモアそれからストレートな表現や図らずも社会批評となる貧者に向けた眼差しなどなど。私にはうまく表現できない。

 中でも「喪の仕事」。一人暮らしの老人の死後の後片付けに出かけた時の話。長い間顔を見にも来なかった娘と息子が葬儀の後に遺品整理に立ち会う。裕福で老人の遺品など何もいらないと冷たく言っていた二人だが、古いアイロンやワッフルメーカーに幼かったころの母親の愛情を思い出す。そしてくたくたになって色あせたエプロンと布巾を見せられた時、

「これ、わたしが四年生の始業式に着てったワンーピース!」

思い出は何気ない細部に宿る。姉弟は堰が切れたように抱き合って号泣した。

 私も目頭が熱くなった。

 実はまだ半分弱が残っている。明日が返却期限で延長不可なので明日の病院行きで読了したいと思う。

 

 昨日は思ったより暖かかったので縁側のガラス磨きと庭の落ち葉焚きをする。今日は朝早くから大工さんが来てくれ二階のフワフワ床を直してくれた。去年玄関ホールの床を張り直してくれた同じ若い大工さんで感じがよく好感がもてた。H殿は例年どおり餅を注文。年の瀬が近づいてくる。

 

 

 

 

         ぴちくちと賑やかなこと木守柿

 

 

 

 残った柿にムクドリメジロヒヨドリ・スズメ・そしてカラス様々なお客様。

掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集

掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集