菊日和

『地球最後のナゾ』 100億人を養う土壌を求めて  藤井 一至著

 小学生だったと記憶する。冬休みの課題で描いた風景画は我ながらうまく描けたと思って提出した。担任の先生がそれを掲示してくださるのをちょっと誇らしげな気持ちで見上げていた時、「この辺の土はこんな色か?」と、私を見下ろして先生はにやりとされた。お定まりの茶色を土に塗っていた私は、先生に言われて初めてこの辺りの土が真っ黒だということに気付いたということがあった。

 それ以来「黒ぼく土」というのは気になっていた言葉でどんな由来でこの辺りはこんな黒い土になったのかと思っていたが、今回この本から「黒ぼく土」が日本の国土の広範囲を占める土であること、火山灰土壌の上に人の営みによる動植物の堆積(腐植)が積み重なって出来た土であることなどがわかった。以前地学の先生がこの黒い色の由来を質問されて「昔の人の焼畑とかですね・・」と答えられて、信じられないようなことを言われると思ったが、まあ焼畑だけではないにしろ縄文以来の長い人の営みが作ったものには違いないらしい。

 この「黒ぼく土」がどんな土であるか。体験的には細かい粘土質の土であることはわかる。酸性であることは耕作にさいして必ず石灰を散布することからもわかる。ふかふかの土なので人参や大根・ごぼうを作るのに適しているらしい。うちの市の特産品が人参であることからそれは納得だ。この粘土はリン酸イオンを吸着してしまうので施肥なしで育つ肥えた土地とはいいがたいそうだ。肥沃だと思っていたいたのに案外そうではなかったのだ。などなど長年の疑問がいくらか明らかになった。

 興味をもったのは「黒ぼく土」のことばかりだがこの本では世界中の土壌について触れられている。大きくわけて12種類ということも初めて知ったことだが画像も多く軽妙な文体にもかかわらず科学的知識の乏しい身には結構難しかった。

 

 十月も今日でお終い。急に寒くなって「冬支度」へと心せかれる。

 

 

 

 

     恩師けふ卒寿の祝い菊日和

 

 

 

 

 一昨日夫の大学の恩師の卒寿の祝いがあった。信念の人で面倒見の良い気さくな人柄でお祝いに駆けつけた人はかなりの人数であったらしい。私達夫婦も結婚に際して不出来な教え子にもかかわらず食事に呼んでいただいた思い出がある。

土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて (光文社新書)

土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて (光文社新書)

 

 

菊人形

 昨日寄れなかった「発掘された日本列島2018」の巡回展に出かける。昨日についで今日の外出だが会期が水曜日までなのでやむを得ない。

 昨日とは打って変わって駐車場には楽に入れる、展覧会の見学者も殆ど無く閑散としていたが、なかなか見応えのある展示品であった。展示内容は旧石器時代から近代までとはば広い。

 中でも千葉県の加曽利貝塚からの丁寧に埋葬されたとわかる犬の骨や土偶縄文時代の人々の思いが感じられてとても興味深い。土偶は乳房と妊娠線がはっきりとわかり、安産の祈祷にかかわるものかもしれないし、犬はすでに人の身近な存在として愛玩されていたに違いない。

 埴輪は四体出ており、群馬県三本木古墳からの出土。巫女と武人像である。グラスを掲げて乾杯をしていたり手をくねらせて踊っているような姿だ。同じ群馬県の金井東裏遺跡から出土したのはよろいをつけたまま亡くなった男性で、おそらく榛名山の噴火による犠牲者とのこと、これは新聞のニュースでも読んだ。

 出土地は忘れたが銅鐸も一点あった。

 美術品でないため撮影可で写真はそのうちの一部。フラッシュ無しなので少し暗いがおおよそのところはわかるかと思う。

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博物館の周辺では菊花展の真っ最中で菊人形も飾られている。

 

 

 

 

        頼るのは信長公なり菊人形

 

 

 

 

 岐阜市の観光の目玉は信長公で、あちらこちらに信長公の銅像である。菊人形も信長公と徳川信康対面の場らしい。どちらがどちらか忘れたがまあ、これは俳句とはいえない代物で。

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焼栗

  H殿がYにブロッコリーの苗を取りに来るように連絡したことからY一家が揃って来宅。気持ちのよい秋日和だから何処かに出かけようかということになる。始めは岐阜市の歴史博物館での発掘展のつもりだったが駐車場はどこも満車でとても近寄れない。急遽揖斐の古刹巡りとする。

 最初に訪れたのは「横蔵寺」開山が伝教大師と伝わる古刹である。かってはたくさんの僧坊を持つ寺だったようだが今は仁王門・三重塔・本堂などを残すのみ、いずれも江戸時代初期のものである。本尊の薬師如来秘仏で六十年に一度の開扉。前回の開扉の時に拝顔したがあまり大きくない可愛らしい仏様であった。また、ここには江戸時代の即身仏も祀られておりこのお姿には孫達もびっくり。納得の入滅というが苦悶に見える表情が痛々しい。紅葉の名所でもあるがまだ時期にはやや早く人出も少ない。京や奈良の寺と比べると古びぐあいも著しくてうら淋しい感じがする。

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 「横蔵寺」の後、道の駅で簡単な昼食後に「谷汲山華厳寺」へ。ここは西国三十三所巡りの結願寺である。長い参道の両側には古びてはいるがそれなりに参道らしい店も並び遍路姿の参拝者もちらほら。本尊は十一面観音菩薩というがお姿はよく見えない。本堂の下が「戒壇めぐり」になっており、未体験という娘婿と孫達が体験する。私は昔随分気味の悪かった思い出があったが男孫達は平然と何事もなかったようである。

 片道一時間もかかるという奥の院まで行きたいという元気な若者達を引き止め、傾きかけた秋の日とともに帰宅。秋の美濃路というか柿もたわわな田園風景に加えY一家と一緒でどうにか足も動いて楽しい一日であった。

 

 

 

 

     参道に栗焼きつづけ老夫婦

 

 

 

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秋天

 うかつなことであった。昨日外科の診察を受け続けて今日は放射線科の診察と思い込んで出かけたら診察日は明日であった。思い込みというのはどうしようもないもので何回も26日(金)という用紙をもらっているのに間違いに気づかなかった。まあ昨日の診察で取り敢えず問題はないことがわかっているので焦ることはないのだが。昨日の主治医の話では簡単に元の状態にもどるということにはならずまだまだ時間はかかりそうだ。

 せっかく朝早く車を出したからと図書館に寄る。開館まで時間が少しあったので市民公園の秋を楽しむ。銀杏がかなり色づいてきた。陽射しが暖かで穏やかな日だ。

 今日借りてきたのは小川軽舟さんの俳句の本やら梯久美子さんのエッセイ、それに地学についての本である。地学はブラタモリを見ていて興味を覚えたからだが、さて読みとおせるでしょうか。

 帰ったら「詐欺葉書」がきていた。「消費料金に関する訴訟最終告知のお知らせ」というもので差し出し人は「法務省管轄支局 訴訟最終告知センター」。中身が抽象的でただ不安を煽るような書き方をしている。悪知恵の働く奴がいるもんだと感心した。

 

 

 

 

     秋天や最も高き樹が愁ふ    木下 夕爾

 

 

 

 

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秋の日

 日和を考えて出かけたつもりなのだが変わりやすい秋の天気でコンビニで傘を買うはめに。幸いにもパラパラ程度ですんだのだが、思ったより足が萎えており廻ったのは三箇所がやっと。

 門徒であるのに本山も知らぬとのH殿の希望どおりまずは東本願寺。子供の頃母に連れられて参拝したことや姉のデートにくっついて行ったことなどを思い出す。それにしてもお東さんは蛤御門の変で類焼したとは知らなかった。建物はいずれも明治以降のもので文化財には指定されていない。

 お東さんへ参ったからにはお西さんにもと西本願寺にも参る。こちらは江戸初期の建物で国宝や重文ばかり。古い建物だけに照明に乏しくかなり薄暗い。残念なことに「唐門」が修復中で公開されておらず拝見できない。書院なども特別な許可がいるようでまた別の機会となる。

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           西本願寺門前町  仏具屋さんが多い

 

 三っつ目は銀閣寺。ここも久しぶりの再訪である。参道に店が並んで随分賑やかになっていたのだが以前もそうだったのか思い出せない。歩いている人をみると外国からの観光客の多さに驚くばかり。修学旅行生以外は外国人のほうが多いように感じる。たまたま「秋の特別拝観」ということで別申し込みをして「東求堂」(国宝)と「本堂(方丈)」「弄清亭」に入れて頂く。「ブラタモリ」でみた四畳半・書院造りの原型の「同仁斎」である。出文机や違い棚に古式どおりに文具が配置されており落ち着いた空間に義政の美意識が垣間見られる。特別拝観をしたのは日本人ばかりの少人数で、じんわりと歴史を感じることができたが裏山で過日の台風の後片付けとかでチェンソーの音が煩かったのは興ざめであった。

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               お決まりの観音殿

 

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                東求堂と薄紅葉

 

 紅葉前で平日でもあり人出は混雑するほどではなかったが以前よりも外国からの観光客がずいぶん多いのに驚かされた。外国からたくさんの訪問者が訪れて国と国との垣根が低くなればそれはそれでいいことじゃないかとそんなことも思わされた。

 

 

 

 

     秋の日や出文机(だしふづくえ)に筆硯

 

                  *出文机・・・同仁斎に備え付けられた文机

後の月

このところヴァランダー刑事シリーズの三作目を読んでいたが、凄惨な場面の連続にいささか疲れた。歳のせいか次々と起きる殺人も平然と読み飛ばせなくなった。従って当分の間ヴァランダー氏とは距離をおくことにした。

 「そうだ 京都へ行こう」と、この前からひかかっていた気持ちを家族に話す。疲れたらすぐに座れる方がいいとTが車を出してくれることになった。大学時代を含めて長い間京都暮らしをしたTはもちろんのこと当方も案外身近だった京都だがH殿はあまり縁がなかったらしい。先日も書いたとおり銀閣寺も未訪問だと言うので今回はH殿の希望に沿って廻ることにする。紅葉には一歩早いがそれだけに最悪の混雑は避けられるかもしれないと甘い期待。明朝早く出発の予定。

 

 

 

 

     後の月山と呼ばれた古墳あり

 

 

 

 

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草の実

『リガの犬たち』  ヘニング・マンケル著 柳沢 由美子訳

 ヴァランダー警部シリーズの二作目である。今回は背景にソビエト連邦の崩壊とバルト三国の独立がある。既得権を守ろうとする一派と自由を得ようとする一派の対立にヴァランダーが巻き込まれるという話である。ヴァランダーは相変わらず格好良くはないが身体を張って問題に立ち向かう。女性に弱く惚れやすいのも同じだ。ミステリーというよりサスペンスで私としては前作の方が面白かった。

 さて、わがヴァランダー警部は警察の仕事に嫌気がさし警備会社に転職しようかと迷っておられるようだがどうされるのでしょうか。

 

 バルト三国といってもこの話はラトヴィアが舞台だが岐阜では最近リトアニアはよく知られている。例の杉原千畝さんがらみである。杉原さんの出身地には業績を顕彰した記念館もある。

 

 

 

 

     草の実の触るるを待てるものばかり

 

 

 

 

リガの犬たち (創元推理文庫)

リガの犬たち (創元推理文庫)