朝顔 

網野善彦対談セレクション 1 日本史を読み直す』 

            山本 幸司編

 面白そうでTから回してもらった二冊シリーズの一冊だ。(二冊目は多分私の手には負えそうもない)半分読了したが、ここまでは面白かった。

 司馬遼太郎、森浩一、黒田俊雄、石井進各氏との対談だが、対談者との相性がそれぞれ反映されていて、それだけでも興味深い。司馬さんは饒舌で、滔々たる自論の展開に網野さんも押され気味、古代史の森さんとはなかなか話は盛り上がらず、黒田さんとは遠慮がちながら対立した見解、そして話の合う石井さんとは談論風発。そのうち、やはり石井さんとの対談「鎌倉北条氏を語る」が一番だ。

 北条氏については、一昨年の大河ドラマで少し知ったが、百五十年ほど権力者であっただけに強かであったというしかない。伊豆という地方の一介の無冠の豪族から昇り詰め、そして滅びたのである。ここでは「境界領域の支配とその理由」が話題の中心だが、それはこの国の境界領域を末端まで支配して、海や陸の交通圏を手中に収め、交易での富を独占したやり方である。それが、北条政権を支えもしたが、また滅亡の元にもなったという。 あの泰時や時頼の伝説も彼らを理想化して、御家人を惹きつけるためのフィクションであったと手厳しい。

 その他、書き留めておきたいと思ったのは、「西の方の呪縛力」という言葉である。黒田さんと網野さんは「東国政権」の実力の評価で違いがある。黒田さんは、鎌倉時代は複数の勢力が集まり、国家体制を維持したという考え方で、「東国政権」の評価は低い。それに対して網野さんはそこそこ評価をしながらも「東国国家」は出来なかったとされる。「西の方に手を伸ばさざるを得ない、呪縛力とは何か。この力の根源とは何か」それを考えていくのが大切な問題だとされるのだが、全くそうである。徳川幕府も東国政権でありながら、西の呪縛を無視できなかったし、言ってみれば国民国家となった今も、その呪縛は残り続けていると思う。

  ノロノロ迷走台風の混乱もようやく目処をついたであろうか。岐阜もところによってはたいへんな被害となったが、わが家は無事にすんだ。二日ほど冷房なしで就寝できる日もあったが、また蒸し暑さが戻ってきた。でも、蝉の声はぱったりと止み、昼も虫の声。

 

     

 

        朝顔は行きあいの空映しけり