『気違い部落周遊紀行』 きだ みのる著
先に読んだい池内紀さんの『山の本棚』にあった一冊。差別語がタイトルに入っているので冷飯をくっているが、名著であるとあった。前からTの本棚にあるのは知っていたが、こちらもタイトルにとらわれて、手に取らずにいた。
筆者は戦争中と戦後の一時期、八王子の恩方村という寒村に住んでいた。戦禍を避けてということばかりでなく、人類学のフィールドワークという意味もあったようで、この本はその調査報告でもあるが、奇異なタイトルだけでなく、村人を英雄・勇士とよび、かなり戯画化された内容でもある。
読んでみて面白いのに驚いた。アイロニカルだが、これは普遍的な一般人間のありさまだ。狡猾にみえて小心、協力的にみえて腹の内では反目、同情的でもあれば、懐疑的でもあり。村議会選挙も全く喜劇的だが、昨今の首班指名に至るまでのドタバタもまた似たようなものではなかったか。げに、「むすび」で筆者は、「ー君の村は特別悪い村だよ。日本にはそんな村ばかりはないな。君の英雄たちは日本人以前だ」と言われて、「条件を変えれば、これはあなたのことです。」と応えている。きだは、この村人を笑いの対象にするだけでなく、好意も抱いていたのである。
しかし、この本が世間で評判になり、毎日出版文化賞を受賞することに至って、村人とは疎遠になり、きだは行方をくらましてしまった。「村の人たちに悪いと思ったからのようであった」と、あとがきで息子さんが述べている。
今はその寒村も消滅してしまい、当地の田舎ですら共同体というものが崩れてきた。今は希薄になった人間関係に安堵しつつも、これでよいのかと思う気持ちも、また、ありである。
すでに鍋用意してあり疾く夜道
高速道路の法面に植えられたウバメガシの実である。今年は豊作らしくものすごい数がころがっている。縄文人は食用にしたということで、食べてみるというブログを見つけた。実際にどうだったか、知りたいものだ。