底冷え

『土を喰ふ日々 わが精進十二ヶ月』  水上 勉著

 今、沢田研二主演で映画化されているというので、手にとってみた。映画はどんなものか知らぬが、なかなか滋味あふれた一冊だ。文章が味わい深いというのもさりながら、紹介される食べ物が食欲をそそるのだ。

 若い頃というより、幼いともいえる頃、水上さんは、禅寺で老師に隠侍(いんじ)として仕えた。その体験が、後の精進料理を楽しむ土台になっているらしい。「精進」とは先徳の料理をさらによく知るということで、昔の舌を思い出し、工夫を加えて十二ヶ月の旬の味わいをまとめられた。「旬を喰うとは土を喰うことだろう」とある。

 どんな食材や料理が挙げられているのかといえば、

一月は冬の真ん中である。芋やら乾物やらの工夫だが、くわいの丸焼きなどは食指が動く。いかんせん近頃はくわいが高いので簡単にまねができぬのは残念。

二月は蒟蒻とふきのとう。三月は高野豆腐と豆類、四月は山菜、五月は筍、六月は梅、七月は茄子とづづく。

 肉や魚は買うものの、畑で採れるものが中心となるわが家の献立の基本も似たようなもので、まさに「土を喰らふ」というのは、自然にならった日本人の食卓だ。石油を食べているような冬のトマトや茄子は相手にしないというのが理にかなっている。

 毎日の食卓を預かっていると気持ちの乗らぬ日もあり、ついつい手抜きにもあるが「工夫」というのは大事だと教わった。出きる限り精神だけは真似てみましょうか。

 

 

        金箔の須弥壇暗し底冷えす

 

 

 母の五十回忌、永代法要にでる。早口の正信偈の読経で、あっという間に終わる。後の法話を半分だけ聴く。「二種深信」の話であった。熱心な信者の人がひと言ごとに相づちをうって聞いておられた。「阿弥陀様にあったことがあるから念仏が信じられる」といっておられたが、不信心な私はなにかの比喩だろうかと驚いて聞いた。