小六月

『あなた』 大城 立裕著

 表題作他自伝的五つの短編。亡き妻に語りかける表題作がいい。筆者は沖縄県出身の初めての芥川賞作家。すでに一昨年九十五歳で逝去された。この作品は最晩年の作品で、作者自身の妻への想いを語ったものだ。

 二人が共に乗り越えてきた年月、賢明だった妻に助けられたこと、思い出深い出来事、そして晩年、何もかも忘れたように先に行ってしまった妻。

 歳を重ねた今、この作品から受け取るのは「平穏はつかの間」という思いである。冬の前の小春日和のようなこの穏やかな日々は、すでに期間限定である。

 さて、他のいずれの作品も最晩年のものだけに幼い頃の思い出や、来し方交流のあった人々の消息に触れたものが多い。九十五歳という筆者の長命から、あの人もこの人もすでに幽明界を異にするという話だ。

 「私が年来考えてきたのが、生きているうちに沖縄の問題は片付くだろうか、ということである。思いついたときにはいくらか期待感もあったが、このごろではほとんど絶望している。」

 「辺野古遠望」の括りの一節である。辺野古は、かつては道に迷うほどの森とのびきった砂浜であったらしい。

 

 子供のころ、母が縫って着せてくれた晴れ着を解いた。何度着ただろう。お祭りと正月、それに一度だけ娘にも着させたから何回もないはず。まだ汚れもない。母も若かったせいか後年の仕立てものよりよほど丁寧のような気がする。塵になる前にと、まずはまた座布団カバー。

 

 

       食卓の笑顔いちばん小六月