十二月

『姉の島』 村田 喜代子著

 『飛族』と同じく離島の海女の婆たちの話である。

島の海女たちは八十五の齢を迎えると、倍暦といって齢を倍に数える習わしがある。ミツルと小夜子は春の彼岸に倍歴で百七十歳になった。現役は引退しても、まだまだ潜る元気はある。時には、倍暦仲間で後の者に残す海の地図つくりに精を出す。小エビが増えてきたところ、カジメの林がよく育っているところ、それから船幽霊にであったところ。婆たちの地図はどんどん拡がる。孫の聖也に教えてもらったハワイ沖からカムチャッカ半島に伸びる天皇海山列。嫁の美歌に聞いた春の七草海山列から秋の七草海山列。累々と続く天皇海山列には、カンム、ユウリャク、オウジン、スイコ・・と古の天皇の呼び名がついているらしい。

 婆たちの興味は島沖に沈んでいるという潜水艦にも及ぶ。戦後アメリカ軍によって接収され強引に沈められたという「伊の四七」と「伊の五八」。超巨大な潜水艦で、今や海底に深く突き刺さって眠っているという。ミツルと小夜子は二人でそれを確かめ線香をあげようと画策するのだが。

全篇、婆の島言葉での語りがいい。『飛族』の婆たちも俗世を超越したような明るさがあったが、この島の婆たちも浮世離れしたように元気がいい。広々とした海を抱かえたのどかな島で暮らしているとこういう老後になるのだろうか。読んでいる間中、島や海の景色がふつふつと浮かんできた。

 

 

          疾く軽く過ぎにし日々よ十二月

 

 

 

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