今年米

『埴輪は語る』 若狭 徹著

 昨日のニュースだったと思うが、大山古墳(仁徳天皇陵)の調査で、やはり大型の円筒埴輪が並べられていたことが判明したと伝えていた。この本の著者によれば古墳の規模で立て並べられた円筒埴輪の数は大きく違い、おそらく大山古墳クラスなら数万本であっただろうという。堀に沿って累々と並べられた膨大な埴輪はきっと見上げる人々を驚かしたにちがいない。

 さて、埴輪は前方後円墳の出現とともに始まり前方後円墳の衰退とともに終焉を迎えたようである。 最初は土管型をした円筒埴輪から始まり、家や船、武具などの器財埴輪、そして鶏や馬や猪、鹿などの動物、王や武人、巫女など人物埴輪へと発展していったようだ。

 墓の主はなぜ埴輪を並べたか。それは簡潔にいえば「古墳の飾り」であると筆者は語る。もちろん墓を他の領域から隔絶し、外からの侵入を許さないという意味もあったにちがいない。しかし、何よりも意味づけられていたのは被葬者の生前の事績を顕彰するという点だ。筆者は群馬県の保渡田八幡塚古墳や高槻市の今城塚古墳の埴輪群からその意味を読み解いている。

 埴輪からわかることのひとつに、我々のくらしが古代から脈々つながってきている不思議さがある。鵜飼、鷹狩、相撲。鷹狩こそ最近目にすることは少ないが、鵜飼はいまでも行われている漁のひとつであるし、相撲も同様だ。ただ今はどちらもショウビジネスになってしまったが。

 あちらこちらの遺跡で多くの埴輪を見てきたが、素朴な造型もあれば、実にリアルで見事なものもあった。例えば出雲でみた射手を振り返った瞬時の鹿を忘れることは出来ない。三重の宝塚古墳へ見事な王の船を見に出かけたこともある。

 この本には、そういう様々な埴輪を系統づけ意味づけてもらった。わかりやすい著書であった。

 

 

 

 

         累年に米余りたり今年米

 

 

 

 

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